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うるさい裏切り者

――見なきゃ良かった。 「もういいってば!」 ――知らんぷりすれば良かった。 「離してよ!」 ――そのことをずっと後悔するのだから…………。    聞きなれた女の喚き声。  甲高くて本当は耳障りだったけれどいつの間にかなんとも思わなくなった自分がついこの間まで存在した。それは慣れなのか、麻痺なのか……。 「夏奈(なな)、ちゃん……?」  人通りがまばらと言えど、道の真ん中で若い女の喚く声は注目を集めていた。一緒にいる男は少し周りを気にしながらも夏奈の手首を掴む腕を解こうとはしない。 「夏奈ちゃん!」  今度は相手に聞こえるように沙葉良(さはら)は声を上げた。  声に気付いた本人はまずいところを見られたと、きまりが悪そうな顔をした。 「誰? お前」と、声を掛けてきたのはこの間も見かけた三年生の男だ。  男は沙葉良の学生服に気付き眼を丸くした。 「え?! 男?! 本当に?? ちょーかわいい顔してんじゃん!!」  馴れ馴れしい男は誰に断るわけもなく沙葉良の顎を持ち上げ、その顔を近くでまじまじと眺めた。 「触んな!」  沙葉良は声と同時にその手をはねる。 「あげるよ! この子ホモだし! アンタ相手すればッ?」 「うっそ! マジで?!」  思ったよりも乗り気な男に沙葉良はイラついたものの諦めたのか反論はなかった。 「良いよ――。行って、夏奈ちゃん」 「――――アンタのそういうトコ、本当嫌い!!」  夏奈はいつものヒステリックを起こしてその場からあっという間に逃げ出した。男が名前を叫んでいても一度も振り返ることはなかった。  残された男は溜息をついて「何なの、お前」と沙葉良を恨めしく睨んだ。 「ただのホモだよ」 「ふざけんなよな。ったく……」  男はすっかり気が萎えたのかズボンのポケットに手をつっこんで沙葉良に背中を向けた。 「ねえ! 夏奈ちゃんと付き合ってるの?」 「さあ」 「さあって?」  沙葉良はその背中をしつこく追う。 「だってアイツ一応オトコいるだろ? えーと、龍弥(りゅうや)だっけ?」 「…………」 「――ね、お前本当に男?」  男はくるりと身体を翻し、再び沙葉良の顔を凝視した。 「――なんなら脱ごうか?」 「いやいや、恐れ多い」  男は両手のひらを沙葉良に向かってあげて見せた。

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