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せつない裏切り者
柔らかい日差しに包まれ、龍弥はしずかに眠っていた。
ふたりが出会ったあの図書館の窓際で――。
黒い髪が日に当たって少し明るくて、長い睫毛が光って見えた。
それは沙葉良の気のせいだったのかもしれない。
髪をゆっくり撫でると太陽を浴びてすっかりと暖かくなっていた。
見た目よりずっと柔らかい髪の毛。最後に触れたのはいつだっただろうかなんて思い耽ってみる。なんだか自然と口元が綻ぶ。
寝息がふっと止まったので龍弥はどうやら目を覚ましてしまったようだ。
「やめろ、ガキじゃねえぞ」
「――だって、ガキみたいに見えたんだ」
自分がこの男に悪役を選ばせたのだと、沙葉良は今になって思い知る。
自分だけが夢中になって龍弥を追いかけ、それが龍弥にとって、まわりの眼にどう映るのか、あの時の自分は考える余裕もなかった。
「やめろって!」
沙葉良の手首を掴み、龍弥は勢いよく立ち上がった。
その顔は沙葉良のよく知る、苛立ちで憤っているあのいつもの顔だ。
「怒んないでよ、ごめん」
あの時の自分と違うのは、今はそうやって冗談めいて笑って返せることだ。
すぐ目の前に龍弥のあの黒い強い瞳があって、沙葉良には妙に懐かしく感じた。
ずっと龍弥は怒ってばかりいたな、と悲しいことも今なら笑って振り返れる。
それは今いるやさしい恋人のお陰なのだ――。
沙葉良の頭の中で愛しい男の顔がよぎる。
思い出すだけで心の中がじんわりと暖かくなるのがわかる。
その笑顔が気に入らなかったのか、龍弥は沙葉良の頭を乱暴に引き寄せた。
「龍ッ……」
気がついた時にはあの長い睫毛が顔に当たるほどの場所にあって、唇には沙葉良の知らない温度があった――。
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