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とどかぬ裏切り者
《小テスト30点もあがったよ! 紗葉良効果スゲー!!(*>∀<)ノ))★》
やんちゃな見た目とは裏腹なその可愛いメッセージ画面に紗葉良はくすりと笑う。
紗葉良はいつの間にか昼休みも一人で過ごす癖がついていた――。
最初は辛い気持ちもあったけれど、自分には今、心強い存在がある。だから学校であぶれてたとしても今なら頑張れると思えるようになっていた。
「あったかい……」
南に昇った太陽がぽかぽかと身体を包み、緩やかな風が時折髪をすいていく。紗葉良は校舎の片隅で瞼を閉じて空を仰いだ。
ふと、人の気配がして目を開こうとするがそれと同時に腕を強く引かれた。
突然のことに紗葉良はよろよろとバランスを崩し、自分を引っ張る相手の胸に頰と手をついた。
顔を上げなくてもそんなことをする人間は紗葉良の知る中で校内には一人しかいない。だが、その相手の名を呼ぶ間も無く唇は塞がれた。
「……っ! りゅ……やっ、やめて!」
胸を押し退けて拒絶するが、力強い腕が自分を離してはくれなかった。それでも紗葉良は抗うのをやめない。
「龍弥ッ!」
バシンと龍弥の頰で乾いた音が鳴る。思ったより強い力に打たれた頰はヒリヒリと痛んだ。
龍弥は初めて紗葉良に拒絶され、初めて殴られる。
「――勝手だよ……」
興奮して息があがった紗葉良は怒りと悲しみに肩を震わせていた。大きな瞳は潤んで、今にも雫が落ちそうだ。
「最初に拒絶したのは龍弥だよ? なのに、俺が斗貴央のモノになったからって手を出すの?! それがどんなに酷いことなのか、わかってる?!」
我慢しきれずに小さな雫はポロポロと紗葉良の瞳から零れ落ち、長い睫毛と上気した頰を濡らした。
龍弥にしては珍しく、その姿を見てどことなく痛そうな表情をしてみせた。
「……お前だって……同意だったろ……」
「……勝てるワケないじゃん……、ずっと、好きだったんだから……」
「だったら!」
「でももう二度としない! あれは俺の最後の決別のつもり!!」
紗葉良は強い瞳で龍弥を見据えた。それは今までの一度も龍弥が見たことのない紗葉良だった。
「お前は……、お前は俺が好きなんだろ? だったら」
「斗貴央を捨てて龍弥といろって? そんな簡単に言わないでよ! 俺はもう――これ以上自分を嫌いになりたくないよ――」
「………………」
「龍弥のこと、好きだよ――。大好きだよ。今だってすごく好きだ――、だけど……」
紗葉良は一度唇を噛んで、自分を落ち着かせるために深く息をした。
「それよりも……今の俺には斗貴央の笑顔を守る方が何よりもずっと、大切なんだ……」
――斗貴央は何があっても、全部を捨てても、俺を一番に思っていてくれる人だから――。
だから、もう……俺は、間違ってはいけない――。
「龍弥――。俺たちはもう、二度と――戻れないよ」
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