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第26話
兄さんがバカンスがどうのって言い出したのは、そのちょっとあとくらいだった。
「バカンス。誘われてんの、例の大富豪に」
怠そうなわりに、ちょっと楽しそうな感じ。
「マジー? 大富豪のバカンスとかすごくね?」
「いや、すげぇと思うけど、なんかなぁ」
「なに贅沢言ってんのー、すげぇって! 行ってくりゃいいじゃん」
「あのなぁ、そんな簡単に言いやがって。お前ほど暇じゃねーよ」
とか言いながら、学生の俺なんかより経済力も時間もあるだろうにね。
「暇だとしてもいろいろあんだよ」
「いろいろって?」
「いろいろさ」
それ以上聞きようもなくて、ふぅん、と適当に濁した。
兄さんの悩みはわからないけど、俺だって多少悩んでるんだよ。
「ねー、兄さん、あのさ、ちょっと聞きたいんだけど」
カウンターに突っ伏しながら、ちらっと兄さんを見る。グラスの縁にキスするように唇をつけたところで、ちらっと目が合った。
「あのさぁ、違う学部のやつで、ちょっと仲良くなった奴いるの、学校のコンビニでバイトしてんだけど」
ごめん、仲良くない。話盛った。
「よかったじゃねぇか、友達100人できるかなだな」
鼻で笑うのを、そうじゃなくて、と嗜める。
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