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第29話
「あ、俺ビールで!」
「了解ー!」
2人に伝えると、そのまま席に案内された。壁沿いの店の隅っこの席。トイレの出入りはしやすそうだ。
「はいはい、ごめんなさいよーっと」
背中をかき分けて席に着くと、向かいの男がよろしくと笑いかけてくれた。
「よろしくー!呼んでくれてありがと!」
ノリでハイタッチすると、そのまま俺の隣に視線をやる。
「お前も挨拶しろよ、せっかく隣なんだし」
「ん?」
その時突然、食べ物の匂いに混じって、嗅いだことのある優しい香水の香りが鼻をくすぐった。
一瞬で心臓がポンと跳ねて、思いっきり隣の席を見てしまった。
「あ」
こんなことありますか。
さらっとした髪とキレ長い目。
「コンビニバイトォォォォー!」
技の名前か何かのように、指を指しながら大きな声で叫んでしまった。
「あれ、何、知り合い?」
向かいの彼が、少し驚きながら不思議そうな顔をしている。
まさか気になってた相手ですとも言えず口をパクパクさせていると、何のリアクションもしないままの隣の彼が「いや、コンビニの客です」とサラッと答えた。
「バイトしてるコンビニの?」
「はい。たまに来るみたいで。よく知らないけど」
「へー、随分リアクションでかいな」
「ね。何でしょうね、意味わかんない」
隣にいるのに、俺の方を一切見ないで淡々と話し続ける。
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