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第32話

「はっ?」 頭の中まで回った酒が、ちゃぽんと音を立てそうだった。 すぐ目の前にあったのは、俺が気になって仕方なかった、シュッとしたイケメンの顔だった。 顔が近づいて来て、思わずギュッと目を瞑る。 周りの悲鳴と共に、唇に柔らかくて温い感触を受ける。 しまいに唇を割り込んで、ぬるぬるっと舌を絡め取られる。 ぷちゅ、とか、ぬむっ、とか、すごい音がを間近に聞いた。 「んー! ん!」 思いっきり叩くけどビクともしない。 ヤバい、窒息しそう。 っていうか何だこの状況? 頭がついていかない。 周りが騒ぎながら、俺から彼を引き離す。 「やりやがったな、こいつ」 引き剥がされるみたいな格好の彼は、顔を真っ赤にして寝息を立てていた。俺をあれほど毛嫌いしてた面影はどこにもない。 呆然として壁に張り付いてると、迂闊だったと言いながら謝られた。 「悪かったなー、俺らもうっかりしてたわ、こいつさぁ」 言いながらぐったりしている彼を親指で指差す。 「酔うとキス魔になんだよ」 「キス魔っ?」 一気に、いつか聞いた話を思い出す。 スノボサークルのとんでもないキス魔の話。 「え、あ、こいつが?」 目をまん丸くしてると、俺をここに誘ったスケートサークルの奴らが、少し離れたところで俺に手を合わせて頭を下げていた。 なんだか頭がついていかなくて、ただただ呆然としてしまった。

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