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第36話

変に距離を置くのも怖くて、空いている隣の席に強引に腰掛ける。 「なんで乗ってんの?」 俺が乗った大学前のバス停ならまだしも。 「二号館の資料室に用があって、そのまま帰るとこだったの」 「……はぁ」 二号館は大学よりも向こうにあるから、乗っててもおかしくないわけだ。やっちまった。 顔も見られないまま、ちょっとの沈黙。 気まずさがすごい。 「なんで嘘ついたの?」 話を切り出してきたのは向こう。声のトーンが静かなのが怖い。 「え、あのー」 「別に嘘つかなくてもよくない? 怒んないし」 「うん……」 会いたくなかったから、なんて言えるわけもなく。口を挟む暇もない。 「まぁいいよ、避けられてるんじゃないかと思ってたから」 避けてましたよ、とも言えず。 「で、実際は時間あるの?どうなの?」 もうここまでくると尋問みたいだ。 「あります……2コマ空いてます……今日はあと昼挟んで4コマだけっす……」 小声で正直に答えると、彼女は軽く咳払いをしてから、そう、と答えた。 「予定ないなら付き合って」 「は」 予定あろうがなかろうが付き合えという感じに聞こえる。 「まぁ、いいけど」 ふわふわした調子で返すけど、彼女は至ってまじめな声をしてる。 「あのさ、私、あんたのことが好きなの」

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