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第38話

バスを降りてから、彼女の背中を追って歩いた。物理的に拘束されてるわけではないものの、精神的な拘束がすごくて逃げられない。 彼女はどんどん裏路地に入っていく。この先は小さい飲み屋がたくさんある。 「なぁ、どこいくの」 やっと声を出した。 昼間だから誰もいないけど、裏路地の飲み屋独特の湿っぽさが際立って、気味が悪い。 「女の子が来るようなとこじゃないよココ」 俺だって来たくないのに。 彼女は構わずどんどん歩いていく。 「女の子が来るようなところがどうかは、目的地に着いてから言って」 裏路地から急に開けた道に出た。 いきなり、白やピンクの壁面が目に飛び込んで来る。 すっかり忘れてた。 裏路地の飲み屋の向こうがラブホテル街だったことを。 「行くよ」 「行くよって」 全然そんなつもりない。なのに彼女は俺の腕を掴んで、強引に適当なホテルに引っ張って行く。 「お金は私が全部出すから」 「いや、そういう問題じゃなくてさ!」 踏ん張ろうとしたけど、向こうの力も強い。 「ちょっ、ちょっと待って、冷静に……」 冷静になってもらおうと努めたら、彼女は涙目で俺の顔を睨んで来る。 「どうせフラれるんだから、一回くらいいいじゃん」

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