42 / 126

第42話

彼は逃げるように先生を振り切って走った。しかもよりによって俺のいる方向に。 ダルマさんが転んだみたいに足が固まって動かない俺の、すぐそばまで走ってくる。 (ヤバい) 夕闇の中だから気づかれないかと思ったけど、ほとんど真横を通ったところで目が合ってしまった。 びっくりした顔してたけど、俺だってびっくりしちゃってたからどうしようもない。 「……」 たった一瞬目が合っただけなのに、すごい印象的でかなり長い時間に感じられた。 彼は何も言わずに去っていって、俺は魔法が解けたみたいにやっと彼の背中を目で追った。 (なんなんだよ) 絶対見ちゃいけないやつだったよな今の。 先生の方に至っては、もう姿も見えない。 なにがあったのか想像するにも限定的すぎて、判断しようもないけど。 大体にして、たまたま俺がそこにいただけで、現場目撃したとは思ってないかもしれないし。 っていうか今日一日なんなの? 女の子に告られて襲われて学校で気になる奴のイヤな現場見ちゃって。マジでなんなの? なんだかどっと疲れて、もう誰にも会いたくなくて、そのまま帰ることにした。 家でちびちびやりながら、頭をクールダウンしないと、明日以降持ちそうにない。 気まずさを引きずりながら、すっかり暗くなった西の方に向かい、バスを待った。

ともだちにシェアしよう!