44 / 126

第44話

「まー、悩まなくても、誰でもそういう経験の1つや2つあるとは思うけどな。その女の子だって、半年も経ったら別の男と付き合ってるかもしれないし。女はそういう切替えマジで早いからな」 「うん……」 「恋愛って片方が想ってても成立しないから。その女の子の一方通行の片思いだった。今回はそうだったって話でさ。よくある話だ。悪いことじゃねぇよ」 「……」 話を聞いてもらうと、贖罪みたいな気持ちになる。 「恋愛かどうかは別として、お前は男の方に一方通行みたいにも見えるけどな」 自分の身の置かれている状況を一言で表すと、兄さんの言う通り、まさにそれなんだ。 先のことなんて何もわからないけど、俺が彼女ではなくて、彼のことが気になっていることは変えられない事実だし。 「仮にさ、仮にだぞ」 少しの間の後、兄さんは空いたグラスと新しいビールを交換しながら言った。 「仮に、お前が男と付き合っても、別に俺は気持ち悪いとも思わないし、この関係は変わらないと思う」 「えっ?」 「好きなら好きで堂々としてたらいい」 「兄さん……」 新しいビールに口をつけながら、一口あおる。 「でも同性に手を出すって、ある意味不倫とか浮気とかよりリスク高いからな。心から祝福してくれる奴なんてまずいないと思え」 「……うん」

ともだちにシェアしよう!