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第54話

そのまま、手を擦りながら目を背けた。 「や、あの、別に、なんかそれで怒ってるとかいうわけじゃないんだけど」 あまりに何も返答がないから、釣り銭握ったままアタフタしちゃった。彼はちらっと俺を見た後、静かに呟いた。 「じゃあ何?」 「え?」 「謝れってんじゃないんだったら、何?」 「謝る?」 「だから、俺にキスされたから、謝らせたかったんじゃないの?」 「はぁ?」 そんなこと、これっぽっちも思っていない。 「え、今までキスした人達に、謝って言われてきたわけ?」 「……」 その分だと図星なんだな、何も言わないもん。 まぁでもいきなりキスされたら誰でも気分悪くするか。股間にクリーンヒットした俺以外は。 「いや、ホントに謝ってもらわなくていいわ。だって酔ってやったことだろ、無礼講じゃん」 本心からぺろりと口にすると、彼は何度か瞬きをして俺を見ていた。 「それよりさぁ、ちょっとお願いがあるんだけど」 そう、そんなことより、正々堂々と宣戦布告だ。 「連絡先教えて」 見つめられたついでにじっと見返しながら言うと、切れ長い目がまん丸く見開かれた。 「れっ、連絡先?」 「うん、連絡先。お前の」 「お前って言うな!」

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