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第58話
「つうか起きてたの?」
明日何時から講義なんだろう。
「今から寝るとこ。思い出して返信しただけ」
「明日何コマから?」
「2コマ」
「マジ?俺も2コマから」
寝るところって言いながら、たらたらとやり取りが続く。
「書道学科って何やるの?」
「書論研究とか、書の評価とか、演習とか」
「へー、なんか全然わかんねぇ世界だ。俺なんか普通に講義やって実習行ってって感じだし」
「保育コースとか、俺絶対無理だ。年の離れた妹いるけど、子供いっぱい相手にするの無理」
「妹いるんだ!」
あんなに遠いと思ってたのに、普通に会話できているのが不思議だった。
ここでふと我にかえる。好きな気持ちだけでここまで来たけど、注目の若手書道家でなんだってことを忘れてた。
(そうだ、先生)
その存在が気にかかる。
気にはなるけど、いきなり聞くのもおかしいよな、なんか。
「ねぇ、お前すごい書道家なんだって?」
とっかかりとしてはいい振り方かな。
返信は少し遅れた。
「書道家っていう言われ方は好きじゃない」
「じゃあなんて言ったらいいの?」
「普通に、書道やってる奴でいい」
「普通にってレベルじゃなくない?」
「そうかもしれないけど、そうやって壁作られるのは嫌だ」
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