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第61話

「うわ早っ」 早々呆気にとられた顔をしている。 いつもストレートな髪の毛が、今日は少しうねってゆるいパーマみたいになっている。 それはそれで似合うなぁなんて思いながらジッと見ちゃった。 「……なに?」 見つめすぎて、不審者みたいな顔をされた。 「あ、いや、なんでもない」 ただでさえあんまり印象良くなさそうなのに、これ以上変な印象を植え付けるのはヤバい。 彼は俺の緊張を知ってか知らずか、壁をぶち破るように教授棟のドアを開いた。 軽く咳払いして、落ち着いた風を装う。 「つうかさ、初めてなんだよね文学部の学舎に入ったの」 改めて、物珍しさからキョロキョロしちゃう。 声小さめにしてしゃべってるだけでもだいぶ響くくらい静かで、なんとなく人がすれ違えるくらいの幅しかない狭い廊下。 壁沿いの本棚には、叩けば埃が出そうな薄茶色い本がたくさん並んでいる。 「俺も他の学部の学舎に入ったことないよ。オープンキャンパスの時くらいかな」 話には付き合ってくれるけど、ちょっと適当に流してる感じもする。 その証拠に、俺の方は全然振り向かず、どんどん教授棟の奥に進んで行く。彼の背中を追いかけるように、後ろをついて歩いた。結構歩くの速い。

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