62 / 126
第62話
「どこに行くの?」
初めて来た場所だしどんどん奥まったところに行くし、ちょっと不安になってきた。
場所の物珍しさが先行して、そういえばどうしてここに呼び出されたのか、理由を聞いていなかった。
「なんで俺をここに呼び出したの?」
走ってきた後の速足だから息が切れる。彼は何も答えない。
やっと足を止めたのは、一番突き当たりに来たときだった。
「あのさ」
俺の方を振り返る。ものすごい近くに彼の香りを感じてちょっとムラッとくる。俺より少し背が低くて、ちょっと上目遣いなのがたまんない。って、そんなこと思ってる場合じゃない。
「悪いんだけど、ちょっと協力してくんない?」
「きっ、協力?」
ここまで来ちゃったし、彼の頼みなら何だって聞くつもりだ。これも惚れた弱みというやつか。
でもあまりにも勢いがありすぎて、全く状況が飲み込めない。急に呼び出されて、畑違いの文学部の教授棟にいるってことしかわからない。
彼はまっすぐ俺を見たままだった。
「俺がここから出てくるまでここにいて」
親指で、自分の背中の方を指す。ドアがあって、講師室と書いてあった。
「講師室?」
なぞって疑問符にするが、彼は俺の疑問を解決することなく、いいか、と声を潜めて言葉を続ける。
ともだちにシェアしよう!