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第62話

「どこに行くの?」 初めて来た場所だしどんどん奥まったところに行くし、ちょっと不安になってきた。 場所の物珍しさが先行して、そういえばどうしてここに呼び出されたのか、理由を聞いていなかった。 「なんで俺をここに呼び出したの?」 走ってきた後の速足だから息が切れる。彼は何も答えない。 やっと足を止めたのは、一番突き当たりに来たときだった。 「あのさ」 俺の方を振り返る。ものすごい近くに彼の香りを感じてちょっとムラッとくる。俺より少し背が低くて、ちょっと上目遣いなのがたまんない。って、そんなこと思ってる場合じゃない。 「悪いんだけど、ちょっと協力してくんない?」 「きっ、協力?」 ここまで来ちゃったし、彼の頼みなら何だって聞くつもりだ。これも惚れた弱みというやつか。 でもあまりにも勢いがありすぎて、全く状況が飲み込めない。急に呼び出されて、畑違いの文学部の教授棟にいるってことしかわからない。 彼はまっすぐ俺を見たままだった。 「俺がここから出てくるまでここにいて」 親指で、自分の背中の方を指す。ドアがあって、講師室と書いてあった。 「講師室?」 なぞって疑問符にするが、彼は俺の疑問を解決することなく、いいか、と声を潜めて言葉を続ける。

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