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第65話

無理やり自分を奮い立たせて、なんとか気力を保った。現状、お茶に誘われたなんて絶対あり得ないと思うし、十中八九痴話喧嘩の仲裁だろうと思う。 好きな子の恋人との喧嘩の仲立ちなんて、流行りの歌の歌詞にありがちすぎて笑えない。 (帰ろうかな) 話し声はまだ続いている。どっちの声だかわからないけど、ちょっと荒っぽかったり急いた感じだったり、ホントに喧嘩してるんだろうなと思うに十分な声がずっと聞こえていた。 でも、アテにされてるうちが華かな。彼が俺を必要だというんだから、用が済むまで待っていよう。 一人芝居ながら早くも失恋の痛手を負って心が痛い。壁に背を預け体育座りすると、そのまま太ももに頭を預けるように顔を伏せた。二人の声以外に何も音らしい音もしなくて、なんだか寂しくなってくる。 こんなことなら連絡先なんか聞くんじゃなかったと思うほどに。 突然ドアが開いた。びっくりして頭を上げると、少し息を荒げた彼と目が合った。 「入って!」 コンビニでも聞いたことのないくらいのはっきりした声で、ちょっと叱責された感じがして勢いよく返事して立ち上がってしまった。 「はっ、はい!」 何かの面接みたいな緊張を感じる。彼は俺の腕をつかんで、ほとんど無理やり部屋の中に引っ張り込む。体同様細い指なのに、結構力があって痛いくらい。

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