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第67話
「本当に恋人がいたとはな」
先生はゆっくり俺たちに近づいてくる。声まで渋い。俳優みたい。
煙草の燻された匂いを感じるくらいそばに近づかれたとき、彼は俺を庇うように少し後ろに押した。
「君、名前は? 書道学科ではなさそうだね、見たことがない顔だ」
「あ、はい、えっと」
「こいつは教育学部の奴です。飲み会で知り合いました」
あ、そこはウソつかないんだ。
「飲み会ねぇ。サークルか何かの?」
「そうですね」
「ふぅん、なるほどな」
なんだかよくわからないけど、今は彼の意向に沿うように振る舞うしかない。
「確か、スノボサークルだったな。君も部員なのか?」
「え、あー、俺は、入ってるわけじゃないんですけど、友達に誘われて飲み会の盛り上げ要員でお邪魔しただけっていうか」
「盛り上げ要員。そこで意気投合したってわけか」
まるで面接のような緊張感だった。
「先生言いましたよね、恋人がいるなら俺のこと諦めるって。報告が遅くなったのは申し訳ありませんでしたけど、本当にこいつと付き合ってるんです。だから、先生と付き合うことはできません」
「あぁ。もちろん言った。でもまさかなぁ……」
俺よりちょっとだけ背が高い。緊張しすぎて、軍人か何かみたいに直立不動で突っ立ったまま。2人の会話もろくに耳に入らない。
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