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第72話
「……ごめんな、ありがとう」
幕引きの台詞としてはありがちだったものの、こっちとしてはそれ以上聞かないというわけにもいかない。
「あのさ、話してくれないかな、今のこと。やり過ごしたけど、全然何にもわかんないまんまだから」
彼は俺に背中を向けたまま少し黙って、軽く頷いた。
「カフェ、行こ。そしたら話すからさ」
「……うん、わかった」
こんなにカフェが遠いと思ったことはない。足取りが重すぎて、なんだかカフェに行きたいような行きたくないような、何とも言えない気持ちだった。
聞いていいのかなと思いながら、聞かなくてはならない気持ちが強い。俺の恋心は置いてきぼりだったからだ。
カフェに着くと、一番人目に付かない、奥のボックス席を陣取った。
「コーヒー2つ」
適当に注文する。店員さんがコーヒーを置いてってくれるまで、向かいって座るだけで話もしなかった。しなかったっていうか出来なかった。
「……あのー……」
なんて話を切り出したらいいかわからなくて。
「どこから聞いたらいいのかなぁ……」
無理やり口を開く。好きな人を目の前に、気のきいたことも言えなくて。まぁ痴話喧嘩の仲裁じゃないのはよかったなってくらいでね。彼は視線を落としてたけど、俺が話し始めたら、まっすぐ俺の方を見た。ちょ
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