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第79話

ここまで言っといて難しいのかもしれないけど、諦めていたことを、あえて口にしてみる。 「もしよかったら、付き合ってもらえたら嬉しいかなって」 言った!言ったぞ俺!なけなしの勇気を振り絞ってやった。どうせ振られるんだ、何言ったっていいだろ。 「虫除けしたの俺なわけじゃん、先生の中では既成事実としてあるわけじゃん。付き合っちゃった方が先々ボロ出なくていいんじゃないかな、とも思うし」 その場しのぎにそれらしいことを並べてみるけど、半分本当にそう思ってる。先生は諦めたと口では言ってたけど、実際どうかわからないし。 「なんかあったら、そばで守ってあげられるしさ。痴漢くらいなら退治してやるよ」 ちなみに、これは本気だ。今回だけの話ならいいけど、そうじゃないみたいだから、尚更。 口が渇いてきた。コーヒーを一口啜ると、彼も同じようにコーヒーを飲んだ。 「全然、考えてなかったけど」 味わうようにゆっくりと飲んで、ふっと息を吐く。 「先生から離れたい一心で、お前のこと利用しちゃって、それ以上のことは何も考えてなかったけど」 「……」 彼は、水面に浮き上がる気泡みたいに、ゆっくり丁寧に言葉を吐き出す。 「別に俺、男が好きとかそういう趣味はないし、彼女もいたことあるし、だから同性からそういう目で見られるのって、すげぇ屈辱的だなと思ってた」

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