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第88話

「まぁ、ほら、普通に友達と出かけんのとそんな変わんないって。な?」 彼が気負わないように、無理矢理話を茶化す。友達と出かけるみたいになんて、自分で自分が傷つくようなことを言いながら。 彼はロコモコ丼を食べる手を少し止めて、軽く頷いた。 「ん、わかった」 少し表情がこわばってるように感じけど、大丈夫かな? 「書展なんて行ったことねぇや、俺みたいなのが行って大丈夫なの?」 話題を戻す。美術館ですらあんまり行ったことないのに、書展なんて行こうと思ったこともない。 「大丈夫だよ、貸しホールでちょっとやってるやつだから、そんなに敷居高くない」 「貸しホールってどの辺の?」 「隣町の駅裏の文化会館」 「なんだ、その辺じゃん」 ちょっと安心した。これで会場は都市部の美術館ですなんて言われたら、一張羅のスーツ引っ張り出すしかなかった。 「だから本当に気軽な感じで大丈夫」 ふと微笑む。その笑い方が本当に柔和だったから、大丈夫なんだろうなって思えた。 「わかった。楽しみにしてるよ」 「どこでメシ食うかも考えとかなきゃな」 「だな! やべぇどうしよう超楽しみ!」 急にデートって感じがして、テンションがあがる。すっかり浮き足立ってる俺に、うるさいから静かにしてって注意されるけど、彼の方も本当に楽しそうに笑ってる。 付き合うことに対してちょっと臆病になってた部分が、少し緩和されたのを感じた。 正直、デートらしいデートなんてしたことないから、うまくエスコートできるかどうかわからないけど。そもそも本命とデートなんて初めてだし。

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