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第89話

「1時ぐらいに、駅前に集合でいい?」 ロコモコ丼最後の一口を食べ終えてからそっと話す。すでに食べ終わっていた俺は、食い気味に「わかった!」と答えた。 「早めに着くようにがんばる」 「別に急がなくていいから、そのくらいで」 「大丈夫、遅れないから!」 「俺の方がプレッシャー感じるわ」 どうしよう、今から講義あるのにそわそわして無事に受けられる気がしない。 「とりあえず、明日な」 これからバイトという彼と別れて、真面目な学生を装いながら講義を受けた。 週末なんてただでさえ待ち遠しいもんだけど、こんなにソワソワしたことはなかった。 何を着ていこう、どうエスコートしよう。その日の講義の内容なんか、一つも覚えていなかった。 そんな当日。 服は悩んだあげく、普通にパーカーの上にピーコートを羽織って、ジーパンとブーツでまとめた。あえてカッコつけたとしたら、ブーツは誕生日に自分で自分に買ったプレゼントで、そこそこお値段がするものというくらいだった。 30分前に着いて、駅の待ち合わせスポットの石像の前にいた。駅のどこって言ってなかったけど、たぶん大丈夫だろう。曇ってるせいか、ちょっと肌寒い。 「あ」 聞き覚えのある声に振り返る。彼がいた。やっぱりここで待っててよかったか。 っていうか。 「丸かぶりじゃん」 挨拶より先に、見たままを口にしてしまった。上半身が色違いってくらいで、パーカーにピーコートにジーパンまで一緒。向こうはスニーカーってところくらいしか違いがない。確かに大学生の初期設定って感じの服装だけど、まさかかぶるとはなぁ。

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