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第110話
「ちょっと待ってて」
いきなり離れたから、縮こまったままの彼はベッドの上で置物みたいになっていた。キョトンとしてるのがだいぶ可愛い。
目的は、こういう部屋には必ずある、小さな自動販売機。ホテルとか旅館とかの部屋にある冷蔵庫みたいな、小さく区切られたそれには、愛し合うのに一味足してくれるアイテムが入っている。
「えーとねー、っと」
しゃがんで適当に眺めて目的のボタンを押す。べらぼうに高いわけじゃないし、値段は気にしない。ドレッシングの入れ物みたいな容器を手に取り、ベッドへ戻った。
「おーまたせ」
彼は所在なさげに体育座りして待っていた。脚を開くようにして目の前に座ると、容器のふたを捻る。不思議そうにしているのを横目に、中身を手に取った。粘っこい透明の液体を手のひら全体に出す。
「何それ?」
本当にわかってないみたい。すごく不思議そうな顔をしてる。そういうリアクションの全てがすごく新鮮だった。女の子ですらこんなリアクションしなかったのに。
「ローション。気持ちよくなるためのアイテム」
「ローション?」
「使ったことない?」
そのリアクションからするにないんだろうな、かえってやりがいがあるわ。なんとなく緊張感も緩んだところで横になるように伝える。
「あ、ちょっと横向いて」
「横?」
「どっち向きでもいいから横に向いて寝て」
広いベッドの真ん中に、不思議そうな顔をしたまま横になる。脇腹から腰に掛けてのほっそりした線がすごい色っぽいけど、そのまま襲いたくなるのをぐっと我慢する。
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