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夏樹はよく迷子の動物を拾ってくる。 「でもまさかアヒルを拾ってくるなんて……」 「正式にはコールダックって言うんだ。結構人気のペットみたいだぜ」 コールダックとは片手で持てるほど小型に改良されたアヒルで、大きさは普通のアヒルの半分で30センチ程度。 首が短めで、ずんぐりとしたシルエットが愛らしい。 人懐っこく、成体になってからでも人に慣れる。 夏樹が拾った個体は、鳴き声の感じからしてオスだと思われる。 部屋の隅にいそいそとケージを置く夏樹に疑問を投げ掛ける。 「自分の部屋で飼育すればいいのに、何でわざわざ……?」 「いや……ちょっとね……」 「帰れない理由でもあるんですか?」 「えーと……」 「はぁ……どうせ電気でも止まったんでしょ?うちもギリギリなんで、節約してくださいね」 「んっ!……んぅ…………わ、わかった」 言葉を濁す夏樹の唇を道すがらに奪い、冷えた麦茶を入れるために台所へ向かう。 夏樹の唇から汗の味がしたので、外の暑さに思いを馳せていたところ、気配がして振り向いた。 足元には、つい先ほどまで部屋をうろついていたアヒルが居て、つぶらな瞳を大智へ向けている。 「先輩、今回の子は何て名前なんですか?」 夏樹は迷子の動物を拾うと、警察に届けを出した後は自宅で世話をする。 大抵は飼い主が見つかるので、世話ができるのはごく短い期間だ。 愛着を持ちすぎると別れが辛くなるので、愛着が沸きにくい、少し変わった名前を付けるのが夏樹のお決まりだ。 例えば、 ダックスフンドには『シャコタン』 ペルシャ猫には『毛玉ゲロ』 子桜インコには『焼き鳥』 モルモットには『被験体』 ギリシャリクガメには……『包茎』 だとか。 如何にも頭の悪い大学生が付けそうなネーミングセンスだ。 「このアヒルは“ケンタ"くんだ!」 「えっ?」 ……意外だった。 夏樹が、人間に付けてもおかしくない、まともな名前を付けたことが。 今までの動物たちとは違う『特別な勲章』のように名前を授かった目の前のアヒルに、少しだけ、黒い感情が大智の中に沸いた……。

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