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夕方になって、夏樹がバイトから帰ってきた。
テーブルの上には生の鶏肉が置かれていて、回りには白い羽が散っている。
「ただいまー……大智、この肉なに?」
「ケンタです」
「…………えっ?」
「ケンタです」
「……う、嘘だろっ!?そんな!ケ、ケンタ……ケンタァーー!!」
「グワッ」
突っ伏して泣き真似をする夏樹の後ろを、ケンタが悠々と歩いていく。
「……あ、今日の晩飯は?」
「鳥の唐揚げです」
「それ最高」
何事も無かったかのように夏樹が手を洗いに行った隙に、大智は散らばった羽を片付ける。
これはケンタのケージから拾ったものだ。
「ケンタ、いい子にしてたかー?」
「グワグワッ!」
「ちょっと先輩!彼氏にただいまのチューは無いんですか!?あんまり俺を蔑ろにすると、本当にソイツ食っちまいますからねっ!」
大智の苛立ちは増すばかりだ。
夕食後の寛ぎの時間でさえも、夏樹はケンタを膝の上に乗せている。
頭や首を撫でられて、ケンタは気持ち良さそうに目を細めていた。
「もう夜だし、ケンタも寝る時間でしょう?ケージに戻したらどうですか?てか戻しましょう。いえ、戻してください」
「えー……」
「えー、じゃないです!ここは俺の家なんですから、いくら先輩でも、俺の指示に従ってもらいます」
うるさいし臭いし最悪だ、とぼやく大智に従い、夏樹はケンタを渋々とケージに戻した。
「もー、俺がケンタばかり構うから、大智くんはやきもちを焼いているのかなー?」
そんなんじゃない!と、否定しようとしたが、夏樹の顔を見た途端に言葉が引っ込む。
目下の者を揶揄する言葉、
ニヤニヤと侮るような視線、
反らした首の細さ、
ツンと形の良い生意気そうな鼻
組んだ細長い脚から醸す傲慢な態度。
それらが癪に障るのと同時に、ひどく劣情を煽った。
「……そうですよ……」
「……え?何、雰囲気ちがくない?大智くん?」
大智は夏樹に詰め寄る。
「俺はねぇ、アヒルなんかに嫉妬する器の小さい男ですよ……」
「あの、えっと……」
夏樹の手首を取り、動きを封じる。
「そんな後輩を受け止めるのは、先輩の役目ですよね?」
「んん!?」
流れるような動作で、夏樹はソファに押し倒された。
獰猛な雄の顔をした大智に射抜かれ、夏樹は動くことが出来ない。
「……覚悟しろよ、夏樹……」
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