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「おーーい、ケンターー」
大智と夏樹は夜の住宅街を探し回っていた。
夏樹は周囲に迷惑にならないギリギリの声量でケンタを呼ぶ。
大智はそれを複雑な表情で眺めていた。
「事故に遭ってたらどうしよう……ここら辺、野良猫も多いし……」
狼狽える夏樹の左頬は赤く腫れている。
それを見て、どうしようもない怒りが沸いてくる。
「……先輩、流石に女の子を家に泊めるってのは無いですよ」
「へ?浮気でも疑ってるの?大丈夫だよ、何もしてないから」
「そうじゃないです。変に優しくしたら、彼女だって期待するじゃないですか。勘違いさせるような行動は良くないですって」
「でも、困っていたら助けたいじゃん……」
大智の中で何かが切れる音がした。
「……っお前なぁ!ビンタされたくせにヘラヘラ笑ってなんなんだよ!殴られるような事するんじゃねぇよ!殴られたら怒れよ!そういう中途半端な優しさがどれだけ人を傷付けてるかわかってんのか!?殴った彼女だって、それを見ていた俺だって最悪な気分だよ!お前がヘラヘラしてるから、あの場で彼女は100%悪者だった……悪者にしたのはお前だよ!!てかな、犬猫アヒルならまだ分かるよ。でも人間拾うって馬鹿じゃねーの!?お前の優しさは優しさじゃなくて偽善だ!俺はお前のそんなところが大っ嫌いだよ!」
大智は夏樹の胸ぐらを掴み吐き捨てるように言った。
夏樹は口を半開きにして眉尻を下げている。
あ、しまった
大智がそう思ったときに夏樹の口が動いた。
「……大智……ごめんな……」
どう見ても傷付いているであろう夏樹は、力無くヘラリと笑った。
一人で探すわ……と行ってしまった夏樹の背中はいつもより小さく見えて、
言葉の弾丸にボロボロにされた体が、夜に散ってしまいそうだった。
傷付けたい訳じゃなかった。
彼の優しさが、最終的に彼を傷付けるのが許せなかっただけだ。
……俺は、何を言っているんだろう。
夏樹の優しさに一番救われたのは、
俺自身だというのに……。
見上げるとたくさんの星が輝いていて、いつか夏樹と共に見上げた空を思い出した。
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