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第7話

「これそろそろ咲きそうなのか?」 「そうですね、もしかしたら今夜辺りには咲きそうですね」 その日、ゲッカビジンがあと少しで開花する事に浮かれていた俺はいつもに増して神楽坂に対して饒舌だった。 「なぁ、これもバラなんだろ?」 「これはつるバラと言う種類です」 「へー。なんでこんな曲がってんだ?」 「これは多分、クライミングローズでしょう。枝をあんな風にアーチに巻き付けたり壁に這わせたり出来るんです」 そう言って庭の入口にあるアーチに巻き付いたつるバラを指さす。 「なるほどね。俺、バラの香りって好き」 「意外ですね、梨人様が香りだなんて」 「お前さ、次期当主に向かってその言い方酷いだろ」 少し馬鹿にしたように形だけの謝罪をした神楽坂がクスリと笑う。 「そういえば、バラの香りで思い出しましたけど、ロミオとジュリエットの有名な台詞にもバラに例えたこんな台詞があるんです」 それからゆっくりと神楽坂がその続きを話し出すと、2人の視線は自然とバラへと注がれた。 「“バラと呼ばれるあの花は、他の名前で呼ぼうとも、甘い香りは変わらない。ロミオだってモンタギュー家の苗字じゃなくとも、ロミオ自身に何の変わりもないのに……”と、バラに例えてる台詞です」 「ロミオとジュリエットは知ってるけど、バラの下りは覚えてなかったな……」 「私も忘れてて久しぶりに思い出したました。でもやっぱり悲しいですよね……」 「何が?」 「最終的には運命の悪戯によって、二人は結ばれることなく命を落とすのですから……」 神楽坂がポツリと口にした言葉がやけに頭の中に響いて、何気なく伸ばした手は行き場を失い宙をさ迷う。 「ここに咲くバラだって……」 「え?」 「……いや、なんでもないです」 そして神楽坂の言葉に気を取られていた俺は、何も考えないままバラに触れようとした。 ……が、次の瞬間その指先に激痛が走る。 「痛ッ……」 「梨人様?!」 俺は余程何も考えていなかったらしい。 その指先にはバラの棘が刺さりそこは赤く血が滲んでいて、思いの外深く刺さったようだった。 するとそれを目にした神楽坂は躊躇することなく俺の手を取り、その人差し指を口元へと引き寄せ、そのまま口に含んだ。 「おまっ、何やってんだよっ!」 「……ッ……いいから……黙ってて……ください」 あまりに突然な事に動揺しまくりの俺に、指を含んだままそう告げると舌を使って指先を丁寧に舐め始めた。 それを唖然としながら眺めている俺の身体が異変を察知する。 今まで、触れる事も触れられる事も拒んできた奴の口の中に俺の指が…… それだけでも身体が熱くなりつつあるのに…… なのに…… それからも舌を指先に絡ませながら時々吸ったりしてその動作はゆっくりと数分間続き、神楽坂の口から指が解放された時、唾液でそこはぬらぬらと光っていた。 「は、早く手当てしないと」 「あ、いや……別にそんな……」 「駄目です!」 有無も言わさず俺の手を引いて屋敷へと歩き出した神楽坂の背中を見つめながら、さっきの舌の感触を思い出していた。 神楽坂…… お前……

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