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 気づけば僕達の住む下宿にたどり着き、僕は天宮くんの部屋に上がり込む。僕は包から書物を取り出すと、天宮くんに手渡した。 「本当に良いのですか?」  天宮くんが眉を下げ、それでも頬を朱色に染めながら期待に満ちた視線を向けてくる。 「もちろんだ。君に対する詫びのつもりだからね」  天宮くんは微かに頬を緩ませると、「ありがとうございます」と言って受け取った。初めて見た天宮くんの笑みは、泣いている時も艷やかで美しいが、頬を高揚させて口元を綻ばせている様子もなんとも優美だ。 「坂間さんは……何を買われたのですか?」  いつもより饒舌な天宮くんは、もう一冊の書物が気になるようで包を持った手元に視線が流れていく。 「見たいかい?」  僕は天宮くんの腕をそっと引き、ちゃぶ台の前に腰を下ろす。机上に乗せた包から書物を取り出すと、天宮くんの表情が瞬時に強ばる。 「そんな顔をしちゃあいけないよ。これも立派な書物であり、芸術なのだからね」  そう言って僕は頬を緩めると、紙を捲っていく。裸体を晒した男女が互いに絡み合い、情事に耽る描写が滑らかな筆使いで描かれていた。 「これなど見てご覧。まるで天宮くんの様に艷やかで、美しいではないか」  女体を縄で縛られた乙女が身を捩らせ、その様子をひたと見据える男の姿。女の艶めかしいぐらいに豊満な裸体は縄によって、更にその:濃艶(のうえん)さを増幅させていた。  横目で天宮くんを見やると、頬を朱色に染めてしおらしく俯いてしまっていた。  何度も情事を繰り返しても、天宮くんは決して恥じらいを忘れず、いつなん時たりとも羞恥の心持ちでその黒い瞳を伏せてしまうのだ。  その様子が僕には堪らないほどに、情欲を掻き立てられ我をも忘れてしまうことが多々あった。 「天宮くん。そろそろ湯屋に行かないかい? その後にでも君に見せたいものがあるのだが」  僕は視線をうつ向けて、唇を真一文字に結ぶ天宮くんの背にそっと手をやる。僕はとっておきの場所を知っていて、天宮くんをそこに連れ出そうと試みたのだ。 「……見せたいものですか?」  天宮くんはやっと視線を上げると、不安げな表情で僕を見上げる。 「ああ、そうだよ。さぁ、準備し給え。僕も部屋から手拭いやら持ってこよう」  僕たちは立ち上がると、それぞれ準備を整えるなり湯屋へと向かった。

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