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「僕は飽きっぽい性格でね。君を本当に玩具にしか見ていなかったのだとしたら、僕は此処まで君の心持をはかろうとなどしなかっただろう」  頬をにやった指先を天宮くんの唇に這わせていく。柔らかくもあり、押し付けた指先を跳ね返すような弾力も兼ね備えていた。今すぐにでもその唇にしゃぶりつきたい、という心持を持て余してしまう。  でもそうしたところで、彼の心までも僕の物には出来ないだろう。僕が一番欲しているのは、彼の僕に対する執着の念だ。僕がいくら彼に心持を傾けていても、彼の心持がこちらにない限りは、安息は訪れないように思えてならない。 「僕はね、今日ばかしは君に判断を委ねようと思っているのだ。僕を受け入れてくれるのならば、君の方から来て欲しいのだが……」  そう言って僕は天宮くんの濡れた瞳をひたと見つめる。たとえ断られたとしても、僕は諦めるつもりなど毛頭なかった。 「僕は……以前までは、貴方に密かに尊敬の念を抱いていたのです」  天宮くんが目元を赤らめ、唇を小さく動かした。 「どうしてだい?」  僕は驚いて呆気に取られる。人に頓着しない彼がそんな事を言い出すなど、予想だにしていなかった。 「貴方の話題は、僕の学部でも有名でした。同人雑誌に載っていましたから……そんなすごい人が僕の隣の部屋で寝起きをしていると思うと、少しだけ鼻持ち高かったのです」  そう言えば最初の頃、天宮くんが僕の名前を知っていたのは一部の学生が発行していた同人誌に掲載されいたからと言っていた。 「初めて貴方に話しかけられ、腕を取られた時……僕は凄く驚いたのです。だから貴方が僕と遊戯がしたいと言った時は正直、嬉しくなかったわけじゃないのです。ただ――」  天宮くんが険しい表情で、黙り込んでしまう。躊躇うような素振りに、僕は先を促すように天宮くんの髪を指で梳いていく。 「最近の貴方の行動には少々納得がいかない事が、多々あるのです。貴方は何かにつけて、僕が望んでいると仰っていますが、貴方は自分が楽しんでいるのを僕の責任にしているようにしているようにしか思えないのです……だから、もう遊戯をやめたいと言おうと……」 「正気かい?」  僕は驚いて天宮くんの肩を掴むと、顔を覗き込む。激しい憤りと愕然とした心持に少々取り乱してしまう。天宮くんは僕の豹変した様子に、目を見開いて体を強張らせた。

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