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「……言えないのですか? 言えないということはやはり、僕の事をそういう風に思っていたのですね」  そう言って天宮くんは、唇を噛み締めホロリと涙を零す。 「もう……耐えられません。僕はこんな事、間違っていると思っていたのです……さようなら」  そう言うなり天宮くんは僕に背を向けてしまう。 「待ちたまえ! 恥を偲んできちんと言おう」  僕は慌てて天宮くんの腕を掴む。微かな震えに如何(いか)にして、天宮くんの心持が穏やかではないかと思い知らされてしまう。 「僕は君を手放したくない。それは玩具や都合の良い淫婦としてじゃあないのだ。君を好いているからなのだよ」  男子たるものがこのような甘ったるい言葉を口に出すなど羞恥の極みだが、こればかりは仕方がなかった。実際に口にしてみると、まさに羞恥に焼き尽くされんばかりに全身が熱に浮かされいく。それでも、天宮くんを失う事を考えれば致し方ない話だ。 「それは……本当ですか?」 「ああ、本当だとも。僕は決して、嘘など言ったりしないよ」  そう言うと天宮くんは、僕の方に体を向ける。今にもその艷やかな瞳から大粒の雫がこぼれ落ちそうな程に、目の縁が湿っていた。 ――ああ、なんと愛おしいのだろうか  さっきまでの羞恥心は僕の中から雲散していき、僕は天宮くんを抱き寄せてしかと腕の中に閉じ込める。 「ああ、すまない。天宮くん。僕は君をこんなにまで追い詰めてしまっていたのだね。僕がもっと早くに、自分の心持に気づいていたのなら此処までならなかっただろうに……」  天宮くんの少し冷えた体温を衣服越しに感じ、僕はそっと息を吐き出す。 「こんなに冷え切ってしまって……早く帰ろうではないか」  そう言って僕は彼の手をしっかりと握ると、元来た道を引き返したのだった。

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