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第4話

その後鹿たちは、現れた時と同様に唐突に、何事もなかったかのようにゆっくりと去って行った。 愛らしい尻を多少の名残惜しさと共に見送り、再び並んで歩き出す。 峠の頂上を越え、下り坂に入った二人の間には、昼間にあった気まずさはもうすっかり無くなっていた。 おかげであっという間に峠の下の自動販売機にたどり着き、目的のビールを手に入れる。 だが、この暑い中すぐに峠を引き返す気にはなれなくて、幼い頃よく遊んだ麓の神社の石段に並んで腰を下ろした。 薄暗い外灯の下で、二人揃って缶ビールのプルトップを起こす。ぶしゅっという若干鈍い音と共に飛び出した大量の泡を慌てて啜ってから、笑い合って乾杯した。 「冷えててうまーい!でも、やっぱ苦ーい!」 まだ酒を飲みなれていないのだろう慶太の反応に、貴之は「ほどほどにな」と笑って思わず頭を撫でた。 「もう、子ども扱いして」 口では文句を言うが、慶太はくすぐったそうに首を竦めるだけで、貴之の手を振り払おうとはしない。だから辞め時がわからなくなって、貴之は名残惜しげに慶太の耳を軽くなぞってから手を離した。 性的なニュアンスは込めないように注意したつもりだったが、慶太の肩がぴくりと揺れたのがわかってしまった。 「確かに二十歳は酒も飲める立派な大人だな。ビール多めに買って帰って、大人の夏休みを満喫しようぜ」 取り繕うように言った貴之の言葉に、ビールを口に運ぶ慶太の手が止まる。 「大人の夏休みって、ひ、ひと夏のアバンチュール……とか……?」 明らかに緊張でどもっているのに、誤魔化すように媚を含んだ笑みを浮かべている。大人の火遊びに興味津々な様は、十分に男心を(くすぐ)るものだった。 これで相手が他人なら、遠慮なく暗がりに連れ込んで悪い遊びを教えてやる。だが、ひと夏の遊びで踏み躙ってしまうには、子供の頃の思い出は美しすぎた。 「お前よくそんな言葉知ってるな。意味わかって言ってんのか」 呆れたように返してやっても、返事がない。慶太は三本目のビールを、仰向いて一気に飲み干した。 高い音をさせて石段に叩きつけるように空き缶を置いた慶太の顔は、既に真っ赤だ。だが、こちらを睨みつけるような瞳は、酔いだけだとは思えない熱に潤んでいた。 「わかんない。わかんないから、貴にぃに教えてもらうんだ」

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