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第5話
絶句する。
軽口で返してやらなければと思うが、適当な言葉が思い浮かばなかった。
今日一日一緒に過ごして、慶太が従兄に対する慕わしさとは異なる感情を抱いていることに、薄々気付いてはいた。
だが、碌に恋愛経験がないせいで、幼い憧れを恋と勘違いしたのだろうと思った。親族の誰かから貴之の性的嗜好を知らされて、好奇心を抱いた可能性もあるかもしれない。
だから、気付かない振りをしてやるのが大人の務めだと受け流していた。
しかし、慶太の稚拙ながらはっきりとした誘惑を、勘違いだと笑って諌められるほどには貴之の意思は固くない。今だけでいいから相手をしてほしいのだと、欲望と必死さを揺らめかせる慶太の瞳から、目を逸らすことはできなかった。
無言で指を添えて慶太の顎を持ち上げると、唇がかすかに震えている。緊張のためか更に潤んでしまった瞳は、それでも逸らさないように力を込めて貴之を見つめていた。
「お前、酔ってるな」
見つめ合ったまま言えば、「酔ってない!」とすぐさま言い返してくる。
やっぱり子供だ。なのにもう、この唇を味わうことしか考えられない。
「馬鹿だな。酔ってるって言っとけよ。そしたらずるい大人は手が出しやすいのに」
――何より、お前自身も言い訳にできるのに。
慶太ははっとした顔で、「酔ってる!」としっかりした返事をした。
その単純さがおかしくて、こんな時だというのに笑ってしまう。
「酔ってる!……酔ってるもん」
顎を掴む指先から逃れようともしないまま、眉尻を下げて情けない顔をする。そんな泣きそうな顔をされたら、言葉遊びを楽しむ余裕も保てない。
軽く突き出している慶太の唇に、齧り取る勢いで食らいついた。
突然のことに見開かれている慶太の目を至近距離で見つめたまま、舌で唇全体をべろりと舐め上げる。
柔らかい唇を抉じ開け、ビールの味がする口内に一気に舌を突っ込むと、慶太の舌が反射的に押し返してきた。
それを引っこ抜く勢いで吸い上げてやったら、「ふぅんんっ」と戸惑ったような鼻声を漏らしてTシャツにしがみ付いてくる。
舌足らずに貴にぃと呼ぶ慶太の舌は案の定短かったが、厚さは十分にあって、絡ませれば弾力が心地いい。
貴之は慶太の舌の感触を堪能しつつも、固く尖らせた舌で頬の形が変わるほど内側を抉り、喉の奥に唾液を送り込むように何度も上顎を削った。
鼻で呼吸するという発想もないのか、慶太は口内を嬲られながら苦しげにうめいている。
もっと楽しみたいが、窒息させそうだと思って苦笑しつつ口を離した。
仕上げとばかりに濡れてしまった慶太の顎を下から舐め上げ、再びたどり着いた下唇を軽く噛む。
自由になった慶太の口は、「あっ」と明らかに濡れた声を上げた。
自分の声の淫らさに驚いたのか、慶太はばっと両手で自分の口を覆う。
可哀想なほど真っ赤だ。その瞳は潤んでいるどころか、もう半ば泣き出している。
貴之は酷使した舌の筋肉を解すように、少し温くなったビールで口内を満たした。
不慣れな反応が新鮮で、そこそこ堪能してしまった。
慶太のハーフパンツは柔らかいガーゼ生地が災いして、固く上向いた円柱状の中身まではっきり見て取れた。
「なぁ慶太、まだ酔ってるか?」
ぶしゅっと音を立てて、新しい缶を開ける。溢れ出した泡が手を濡らすのも構わず、慶太に差し出した。
涙目の慶太は両手で口を覆ったまま、その缶を揺れる視線で見つめている。
だが、意を決したように両手を伸ばし、その缶を奪い取った。そしてすっかり赤く腫れてしまった唇を大きく開き、感心するほどの勢いで一気に飲み干して見せた。
「酔ってる」
言うなり、缶を放り投げるようにして抱きついてくる。汗とビールの混じった若々しい体臭の中に、遠い記憶の中のラムネやスイカがかすかに香った気がした。
「あっち。秘密基地」
慶太が胸に顔を埋めたまま、少しだけ頭を動かす動きで神社の隅の物置小屋を示す。
縋りつくように抱きついているのに、前が当たらないように腰だけわずかに引いている若々しい羞恥が愛しかった。
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