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第2話

次の日、俺は早々に会社に行った。 自席に座り、何をするでもなくくるくると椅子を回す。 社内には人がおらず、静寂が訪れる。この、空気が好きだった。 昨日の事を思い出す。俺を探して福岡まで来てくれたトキ。千鶴ちゃんと別れたと言ったトキ。 俺は…どうすればいいんだろう。 「おはようございまーす」 考えていたらそんな声と共にドアが開いた。 人懐こそうな顔立ちの社員は俺を見るなり近づいてきた。 どうやら外見通りの性格らしい。 「あ、中途採用の…鷹栖さん、ですっけ?」 「あ、はいそうです!」 俺が背筋を伸ばして立ち上がると、彼はそれを制して座るように促してくれた。 「俺、芦田汐音(あしだしおん)です。鷹栖さんって、こっち系なんですか?」 「な、何ですか急に……」 こっち系、とはゲイの事だろう。俺は怯んだ。 それを知ってか知らずか、芦田さんはあっけらかんと言ってのけた。 「俺もゲイなんですよー! 空気? 雰囲気って言うか。解るんですよねー!」 「あ…そう、なんだ…」 「鷹栖さんっていくつでしたっけ? あ、俺26なんですけど」 「俺も26…」 芦田さんの瞳が一層光輝いた気がした。 それからは捲し立てるみたいにどんどん話が進んでいき、何故か終業後一緒に飲みに行く事になった。 仕事終わりに二人で芦田さんの行き付けだという居酒屋へ向かった。 もつ鍋が美味しい居酒屋で、焼酎や日本酒の種類も豊富ですぐに俺も気に入った。 「で、遙真の好きな人はどんな奴?」 こいつ、いきなり呼び捨てか…まぁいいか。 俺はこれまでの経緯を芦田さん、改め汐音に話して聞かせた。 「それは今チャンスじゃない!? もう、落としたも同然じゃね!?」 「そんな訳あるか!! トキは今までずっと女の子が好きで…絶対、そんな事、ない」 「でも、お前の事追いかけて来てくれたんだろ?」 それは、幼馴染だからだ。ツキリと胸が痛んだ。 俺は日本酒を煽った。二人してどんどん酒を飲み干した。 明日が休みで良かった。酔った勢いで、俺は汐音に本音をぶちまけていた。 「本当は、トキとそう言う関係になりたい…ずっと中学の頃から思ってたんだ…」 「うん…」 俺の愚痴に、汐音は文句も言わずに聞いてくれた。同士だからだろうか。 今は唯々有り難かった。 二人して居酒屋を後にした。俺はと言うと既に出来上がってしまい、足元が覚束ない。 「大丈夫かー? お前んちどこだよ」 「んー、タクシー乗って帰るから大丈夫…」 「いーよ送る」 そう言って、汐音は止まっていたタクシーに俺を乗せて、自分も乗ってきた。 仕方なく俺は自分の家の方面を運転手に伝える。 汐音は笑って、俺も同じ方向だなんて楽しそうに呟いた。 「…ここって俺と同じマンションじゃん」 「マジか」 マンションに着いたが、どうやら偶然にも汐音もここに住んでいるらしい。 エレベーターに乗って4のボタンを押す。また隣からラッキーと言う声が聞こえた。 「…うわ、隣の部屋じゃん」 「…嘘」 「ホント。昨日、隣がうるせーなーと思ってたらお前だったのかよ」 「ごめん…」 「まぁいーわ、じゃ、お疲れさん。お休みなー」 そう言ってひらひらと手を振って隣の部屋へと入っていった。 俺も部屋の中に入る。今日はなんだか昨日の事があったのに気分がすっきりしていた。 愚痴を聞いてくれる相手が出来て良かったのかもしれない。 前向きに考えよう。俺は、この地で人生をやり直すんだ。

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