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第3話
休日、なんとか二日酔いの頭で起き上がり、家事と掃除をこなした。
昼前に、チャイムが鳴り出てみるとそこには汐音の姿があった。
どうしたのかと尋ねると、様子を心配して見に来てくれたらしい。
良い奴だ。
「上がってけよ。お茶くらい出す」
「お、ラッキー! お邪魔しまーす」
このマンションは1DKで一人暮らしには丁度いいサイズの部屋だ。
バストイレ別で、ダイニングキッチンは広々としている。
居間兼寝室に汐音を通し、俺はキッチンで麦茶を注いで、それを汐音の前のテーブルに置いた。
ありがとう、と言って汐音はそれに口を付ける。
「大体片付いたんだな」
「あぁ、徹夜作業だったよ」
そんな他愛もない話をする。
「お、これ最新版じゃん! やっていい?」
「あぁ、どうぞ」
汐音はアクションゲームの最新版を見つけて、そう聞いてきた。
コンセントを繋いでテレビ画面を替える。
ゲームに集中し出した汐音に一言言って、俺は洗濯物を干す事にした。
ベランダに出て順序良く干していく。一人暮らしなので量もそんなにない。
洗濯はものの数分で終わった。
「昼飯どうするー?」
「あー、どっか食べに行くか? この辺まだ解って無いし汐音色々教えてよ」
「了解!」
ゲームを終了して汐音が立ち上がる。
それとほぼ同時にチャイムが鳴った。俺は急いで玄関に行きドアノブを回した。
「ットキ…?」
「また来るって言っただろ」
それにしても早すぎなのではないだろうか、まだ二日しかたってない。
いや、そんな事は関係なくて、また会えた事に心臓が弾む音がした。
考えあぐねていると、汐音が後ろからひょいっと顔を出した。
人懐っこい表情で俺の肩に手を回し、聞いてくる。
「この人が柴さん? 初めましてー俺、遙真と同じ会社に勤めてる芦田汐音って言います!」
「あ、どうも…」
「ちょ、汐音暑苦しい!」
俺は汐音の腕をどける。こいつ絶対にわざとだろう。
俺と汐音を見比べたトキは、困惑した表情をする。
汐音がニッコリと笑って言ってのけた。
「じゃ、用事は終わったから俺はこの辺で。お邪魔しましたー」
小さく、頑張れよと囁いて汐音は部屋から出て行った。
残された俺たちはしばらくお互い無言だったが、部屋に入るように促すと、遠慮がちにトキは部屋に足を踏み入れた。
先程まで汐音が使っていたグラスを片付けて、新しいものを出しそこに麦茶を注ぐ。
それをトキに手渡して、俺もトキと向かい合う様に腰かけた。
「友達?」
「え? あぁ、うん。そうだよ」
「仲良いな」
それは、あいつも同類だからであって…。
それよりも、俺は気になっていた事をトキに聞いた。
「本当に千鶴ちゃんとは…その…」
「あぁ、ちゃんと事情を話して別れて来た」
その、事情というのが気になった。俺のせいで二人が別れてしまったんだよな…。
「後悔はしてない。俺は、俺が正しいと思った道を進む」
「そっか…。あ、昼飯食べた?」
まだだと言われたから、二人で出掛ける事にした。
俺自身、まだこの辺は詳しくない事を話すと、じゃあ散歩がてらブラつこうという事になった。
二人並んで歩く。昔は当たり前だったのに、今はそんな事でさえドキドキしてしまう。
ちらりと横目でトキの顔を盗み見ると、整った顔立ちがそこにあって。
キリッとした目に、シュッとした鼻、やはりかっこいい。
俺の視線に気付いたのか、バッチリと視線が合う。
恥ずかしくなって急いで目を逸らした。
「俺の顔に何かついてた?」
「いや、そんな事ないよ」
「…あ、そういえば、ホテルとるの忘れてたんだけど、お前んち泊まれる?」
「はい!?」
え、え、待って。それは無理さすがに無理!!
心臓がいくつあっても足りそうにない。
あたふたとする俺をよそにトキはどんどん話を進める。
「コンビニで下着とかは買えるとして…」
本気のトキに俺は降参するしかなかった。
この後、ラーメン屋を見つけ、そこで昼食を済ませ、帰りにコンビニでトキのお泊りセットを購入した。
あまりの急展開。どうなってしまうのだろうか…。
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