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第11話

トキが出て行ったドアを見つめる。 ドッと疲れが押し寄せてきて、俺はベッドへダイブした。 (トキは俺とキスした事なんとも思って無いんだ…) あの日、キスされた事。きっとトキにとっては大事な事ではないのだ。 俺は、嬉しかった。心臓の音がうるさくて、緊張して、息が苦しくて…。 だけど、トキはそうじゃない。 馬鹿みたいだ、俺…。自然と泣けて来て、涙が頬を伝う。 もう、会わない方がいいんじゃないか? 無かった事にされないし、俺自身こんな思いしなくて済む。 そうだ。もう、会わなければいい…。 俺はすぐにスマホを取り出し、トキにメールをした。 『もう、家に来なくていい』 涙を拭い、俺は気分を変える為に部屋の掃除を開始した。 夕方、買い物をしている時にポケットに仕舞ったスマホがブルブルと震えた。 ロック画面を解除し、メールの中身を確認する。 相手はトキだった。 『解った』 その一言だけ。乾いた笑いが込み上げてくる。 もう、トキの事は忘れよう。そう、心に誓った。 「それで? 何でうちに来たの?」 汐音が呆れた顔で俺を見る。俺はと言うとビールの缶片手に汐音に愚痴っていた。 「解ったって何だよ! 解ったって! 他に何かないのかよ!?」 「忘れるんじゃなかったの?」 「……まだ、無理…」 グビッとビールを煽る。 あれから夕飯を作って(思わず作り過ぎて)汐音におすそ分けする事にした。 そのまま、呑む事になり、この状況だ。 「もー素直になればいいじゃん」 「言ったよ! 好きって言ったのに向こうが何もリアクションしてこないんだよ!」 「じゃあ行けばいいじゃん」 そう言って、汐音は仕事鞄の中から一枚のプリントを取り出し俺に手渡した。 「研修会…? 一泊二日で開催場所東京…」 「それ今、募集してたから遙真行って来いよ。ついでに柴さんに会ってお前の思ってる事ぶちまけてくりゃいーじゃん」 「そうは言っても…」 「あー、もうグダグダ言うな! 月曜日申し込めよ!」 有無を言わさぬ汐音の迫力に負けて、俺ははい、と言うしかなかった。

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