12 / 14

第12話

俺は今、東京に来ている。 久々の都会はなんだか知らない場所の様で、少し不安になった。 無事に研修の場所に着いて、時間まで時間を潰す。 汐音も同じ研修を受けている様で俺の隣で欠伸を噛み殺していた。 暫くして、講師の先生が入ってくる。こうして研修が始まった。 俺は、此処に来る前に一通のメールをトキに送っている。 今日、東京に来る事、お前に逢いたい事、このメールが最後のメールだという事。 俺は賭けに出た。これで返事がなければもうトキには会わないし連絡もしない。 その事を汐音に伝えると、絶対に返事は来ると笑っていた。 そんなものだろうか。 研修に集中していると、スーツの内ポケットに入れているスマホが震えた。 心臓が高鳴る。トキだろうか。それとも――。 休憩に入り、俺はすぐにスマホを確認する。差出人はトキだった。 「うわ…」 メールが来ただけでこんなにドキドキするだなんて、中学生の様だがそんな事は気にせずに震える指先でメールをタップした。 『俺、今風邪で寝込んでて…折角の誘いだけど悪いな』 文面を目で追う。何度読んでも、そう書いてあるだけだ。 トキが風邪…嘘か本当か解らなかった。汐音にこの事を伝えると厳しい顔で言われた。 だったら、研修終わったらさっさと見舞いに行け、と。 夕方、研修を終えて、俺は一目散にトキの住むマンションへ急いだ。 行き慣れた場所だ。もう道のりは完全に覚えている。 15分ほどタクシーに乗って、マンションの前で降りる。 マンションに入り、3階へ向かう。トキの部屋は3階の角部屋だ。 インターホンを押してトキが出て来るのを待った。 暫くして、ドアが開く。マスクをつけたトキが目の前に現れた。 「はる……?」 「トキ…大丈夫かよ…」 「何で、お前…俺会えないって…」 「心配に決まってるだろ! 飯は? 食ったか?」 「いや、まだ…」 俺は有無を言わさずトキの部屋に上がった。 呆然と俺を見つめるトキを他所に、俺は冷蔵庫を開ける。 中身を確認し、トキが食べられそうなものを作る事にした。 トキは観念したのか、布団へと入り、寝る体制になった。 俺はおかゆを作り、それをトキの元へと運ぶ。 「食えるか?」 「あぁ、悪い…」 「いいよ、俺が好きでやってるし」 トキがゆっくりとおかゆを口に運ぶ。 それを見つつ、俺は口を開いた。 「なんか、色々ごめん…」 「お前からメール来た時、正直嬉しかった」 「トキ……」 「俺、まだお前の事好きとか解らない、けどはるが他の奴と付き合うのは…いやだ」 「トキ……それだけでも十分…俺、嬉しいよ…」 トキが俺の頭を引っ張り、口づけをした。 それだけで、胸が張裂けそうで幸せで、俺は目をつぶった。 「ト、キ…んっ」 「ッ…ごめ、俺……」 「いいよ、俺、トキの事大好きだから…」 「…ごめん、俺男同士で付き合うってのが怖いのかもしれない…だから、お前にちゃんと答えられなくて…」 「今は、それでいい。俺だって怖いよ…でも俺はきっとトキだったら大丈夫だ。トキもそう思ってくれたら…その時は教えてよ」 「あぁ…」 俺たちは、もう一度唇を重ねるのだった――…。

ともだちにシェアしよう!