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第12話
俺は今、東京に来ている。
久々の都会はなんだか知らない場所の様で、少し不安になった。
無事に研修の場所に着いて、時間まで時間を潰す。
汐音も同じ研修を受けている様で俺の隣で欠伸を噛み殺していた。
暫くして、講師の先生が入ってくる。こうして研修が始まった。
俺は、此処に来る前に一通のメールをトキに送っている。
今日、東京に来る事、お前に逢いたい事、このメールが最後のメールだという事。
俺は賭けに出た。これで返事がなければもうトキには会わないし連絡もしない。
その事を汐音に伝えると、絶対に返事は来ると笑っていた。
そんなものだろうか。
研修に集中していると、スーツの内ポケットに入れているスマホが震えた。
心臓が高鳴る。トキだろうか。それとも――。
休憩に入り、俺はすぐにスマホを確認する。差出人はトキだった。
「うわ…」
メールが来ただけでこんなにドキドキするだなんて、中学生の様だがそんな事は気にせずに震える指先でメールをタップした。
『俺、今風邪で寝込んでて…折角の誘いだけど悪いな』
文面を目で追う。何度読んでも、そう書いてあるだけだ。
トキが風邪…嘘か本当か解らなかった。汐音にこの事を伝えると厳しい顔で言われた。
だったら、研修終わったらさっさと見舞いに行け、と。
夕方、研修を終えて、俺は一目散にトキの住むマンションへ急いだ。
行き慣れた場所だ。もう道のりは完全に覚えている。
15分ほどタクシーに乗って、マンションの前で降りる。
マンションに入り、3階へ向かう。トキの部屋は3階の角部屋だ。
インターホンを押してトキが出て来るのを待った。
暫くして、ドアが開く。マスクをつけたトキが目の前に現れた。
「はる……?」
「トキ…大丈夫かよ…」
「何で、お前…俺会えないって…」
「心配に決まってるだろ! 飯は? 食ったか?」
「いや、まだ…」
俺は有無を言わさずトキの部屋に上がった。
呆然と俺を見つめるトキを他所に、俺は冷蔵庫を開ける。
中身を確認し、トキが食べられそうなものを作る事にした。
トキは観念したのか、布団へと入り、寝る体制になった。
俺はおかゆを作り、それをトキの元へと運ぶ。
「食えるか?」
「あぁ、悪い…」
「いいよ、俺が好きでやってるし」
トキがゆっくりとおかゆを口に運ぶ。
それを見つつ、俺は口を開いた。
「なんか、色々ごめん…」
「お前からメール来た時、正直嬉しかった」
「トキ……」
「俺、まだお前の事好きとか解らない、けどはるが他の奴と付き合うのは…いやだ」
「トキ……それだけでも十分…俺、嬉しいよ…」
トキが俺の頭を引っ張り、口づけをした。
それだけで、胸が張裂けそうで幸せで、俺は目をつぶった。
「ト、キ…んっ」
「ッ…ごめ、俺……」
「いいよ、俺、トキの事大好きだから…」
「…ごめん、俺男同士で付き合うってのが怖いのかもしれない…だから、お前にちゃんと答えられなくて…」
「今は、それでいい。俺だって怖いよ…でも俺はきっとトキだったら大丈夫だ。トキもそう思ってくれたら…その時は教えてよ」
「あぁ…」
俺たちは、もう一度唇を重ねるのだった――…。
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