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風 息 才能
一瞬で、世界が止まる。
世界が……反転する。
……何も、感じない。
全開の窓から聞こえる筈の、蝉の声も。扇風機の風さえも。
触れられた所以外、何も──
首筋を伝う、汗。
熱い……唇……
「……」
ミーンミンミン……
ゆっくりと、離れていく。
鼻先にかかる、悠の熱い吐息。
熱い、瞳。
「……」
暑くて。
熱くてあつくて……
悠だけじゃない。僕の頭も、壊れて……おかしくなったのかも。
「双葉、俺のモンになって……」
「………うん」
熱く絡む視線。
悠の真っ直ぐな言葉に、僕は頷いていた。一寸も動揺する事なく……
あのキスをキッカケに、僕を取り巻く全てが変わった。
そういう世界がある事を、初めて知った。
……だけど、不思議と不安は無くて……
『双葉がいれば、それでいい』
悠の揺るぎない態度や言葉が、僕を安心させてくれた。
だから、この先もずっと、悠の隣にいられるものだと信じてた──
冷え切った悠を、部屋に上げる。
怠いのか。腰を下ろした悠が崩れるようにテーブルに突っ伏した。
僕はマフラーを外しながら電気ヒーターのスイッチを入れ、やかんに火をかける。
「……俺さ、双葉の幻覚が見えるんだよね……」
ボソリと、悠が力なく漏らす。
「家にいて、気配まで感じんの。……あー、今ここに双葉がいるって。
俺、そういう才能でもあんのかな」
「……何それ。もしそれが本当なら、結構重症じゃん」
少しだけ、揶揄する口調で返す。
悠の傍らに座れば、悠が伏したまま顔を此方に向ける。
「……うん、重症……
俺、いま双葉が不足しすぎて、死にそう……」
憂いを帯びた瞳。
口角を少しだけ持ち上げ、力なく微笑む。
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