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香炉 箒 外套

目の前に浮かぶ、銀色の香炉。 それを手に取って金属部分を擦れば、もくもくと白い煙が立ち上る。それらが集まってひとつの塊となり、悠へと姿形を変えれば……僕を見つけるなり、正面から抱きついてくる。 子供のように縋りつく悠。抗えずに背中をトントンとあやしていると、辺りに掛かる靄が掃けていき…… 『その人、彼氏だったのですね』 外套(がいとう)を羽織ったスーツ姿の誠が現れ、少し寂しそうに笑う。 『さようなら』 ……え、待って。誠さんっ……! 背を向け去っていく誠を、追いかけようとする。と…… 『行くなよ』 悠が僕にしがみつき、引き止める。 その身体は冷え切っていて、僅かに震えていて…… 『俺を置いて、行くな……』 弱々しい、声。 悠を放ってはおけなくて。抱きつかれたまま、小さくなっていく誠の背中を目で追い掛ける。 と……その姿が箒星となって、ピューッと夜空に飛んでいってしまった── 「……」 ぱちん、と瞼が上がる。 カーテン越しに差し込まれる、柔らかな朝日。 ……夢、か…… 安堵の溜め息をつき、ゆっくりと辺りを見回す。 考えてみれば、凄く変な夢。煙が悠とか、誠さんが流れ星とか…… 身体を起こそうと掛け布団を剥ぐと、ひんやりとした空気が肌に纏う。 「……え」 視線を下に向ければ、一糸纏わぬ姿が。 瞬間、サッと血の気が引く。 「おはよ、双葉!」 部屋に入ってきた悠に、声を掛けられる。 シャワーでも浴びてきたんだろう。バスタオルを腰に巻き、濡れた髪を拭く悠は、何処かサッパリとした表情を浮かべていて。 『何もしないから……』──そう、言ってたのに…… バッと掛け布団を鼻先まで隠し、悠を睨みつける。だけど悠は、全然堪えてなくて。揶揄うような瞳を僕に向けながら、ベッド端に腰を下ろす。 「何、今更恥ずかしがってんの? 昨日、あんなに激しく……」 「………ば、ばかっ」 恥ずかしさと腹立たしさから、僕は掛け布団を頭から被った。 「はは、冗談だって。ヤッてねーし!」 「……」 じゃあ何で、僕も悠も裸なの……? 「……ごめん。俺、なんかさっき吐いちゃってさ。 双葉の服も汚しちゃったから、全部脱がしただけだって。……何もしてねぇよ」 「……」 「今、洗濯してるからさ」 覇気のない声。 悠は、嘘をついたりなんかしない。だから多分、本当なんだと思う。 でも…… 「……やだ」 冗談にしては、悪質だよ…… 去っていく誠の背中を思い出し、胸の奥が痛む。 「……双葉、泣いてんのか?」 そっと掛け布団を剥がした悠が、僕を見下ろす。

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