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刃物 ピアス 三秒間

「ごめん、悪かったって」 少し慌てた悠が、僕の前髪に手を伸ばす。そっと触れる指。 石鹸の香りに混じって、悠の匂いがふわりとする。 夏の太陽の下、潮風を浴びた様な…… 上手く言えないけど、心の奥を甘く締め付ける……僕の、好きな匂い。 その匂いと触れられる心地良さに、悠へ気持ちが湧き上がってくるのを感じる。 ……そんなの、ダメなのに…… 離れていく指先。 消えていく感触に淋しさが募り、濡れた瞳のまま悠を見上げれば…… 「……」 薄く瞳を閉じた悠の唇が舞い降り、そっと目尻に落とされる。咄嗟に閉じた瞳から、溢れた涙を受け止めるかのように。 たった、三秒間──だけど、もっと長く感じる…… ……ゆう…… 間近で僕を見下ろす双眸。 右耳にある十字架のピアスが、朝陽に当たって煌めく。 それは、悠が初めての給料で買ったもので。もう片方を、僕にプレゼントしてくれたんだっけ…… でも僕は、ピアスホールなんてないし。空ける予定もなく、一度もつける事はなかったけど…… 「寒くなってきたから、入っていい?」 悠が、掛け布団を大きく捲り上げる。 「……やだっ!」 「風邪引く、マジで」 「入ってきたら、……刺すからね」 横になったまま、刃物を構える格好をしてみせる。すると悠が、ふっふっふっ……と肩を揺らし…… 「……いつも言ってんじゃん。刺すのは、俺の方だから!」 そう言って、悠がダイブしてくる。 慌てて掛け布団を引っ張り上げ、何とか侵入を阻止すれば、「入れて!」と強引に入り込もうとする。僕に愛しい八重歯を見せながら。 「もぅ、ゃだったら……!」 別れた筈なのに──まるで恋人だった頃と変わらない、悠の態度。 それに戸惑いと懐かしさを感じながら……今までが悪い夢で、今が現実なんじゃないか…… そんな錯覚を、起こしてしまっていた。

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