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恋しい 煙 猫

「──え! 大輝の知ってる人なの?」 思わずそう口走ってしまってから、慌てて口を閉ざす。 けど、時既に遅し。僕の言動から、何かを察知してしまったらしい。 「そ。会いたくて会いたくて震えるくらい、恋しい人なの」 そう言って揶揄する笑顔を見せ、僕を煙に巻く。 誠がいつもの席につくと同時に、大輝がスッと席を立つ。そして誠に声を掛けながら相向かいの席に座ると、何やら楽しそうに二人が会話を弾ませた。 「お待たせしました」 カウンター端にいる、猫目の女性に注文の品を出す。 しかし、スマホに夢中で僕の方など一切見ず。先に出したドリンクにも、まだ手を付けていない。 「……」 二人の様子が気になり、視線を向ける。 ……何、話してるんだろう。 あんなに楽しそうに笑う誠さん、初めて見た…… 一緒に過ごしたあの夜を思い返せば、殆ど会話が無かった事に気付かされる。 その時、ふと目が合った大輝が片手を挙げ、僕を呼んだ。 「双葉さ、今夜空いてる?」 「……え」 「飲みに行こ。……渡瀬もね」 ……え!? 大輝の唐突な誘いに、目を見開いたまま誠を見れば……同じく驚いた表情を一瞬だけ覗わせた誠と目が合った。 「……ええ。僕は構いませんが……」 そう答えながら、優しい笑みを浮かべた誠が、僕の反応を静かに待つ。 「……」 嬉しい。……けど…… 『恋しい人』──その言葉が妙に引っ掛かって、どうしたらいいのか解らない。 ……と、躊躇していれば、突然大輝に腕を強く引っ張られ、……唇が、僕の耳に寄せられて── 「住所のお詫び」 そう囁かれた耳朶が、熱い。 間近で大輝を見返せば、意味有り気な笑みを返される。 『お客さんの中に、気になる人がいる』──瞬間、大輝に誘導尋問されて、そう白状した事が思い出された。

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