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蟹 書類 ゲームオーバー

店の戸締まりを終え、外に出る頃にはすっかり雨は止んでいた。 程良い湿気のせいか、突き刺すような寒さは感じない。 待ち合わせ場所であるゲームセンター。 駅前通りに程近く、学校帰りの学生達が屯している。入って壁際のシューティングゲームを覗けば、格好つけて銃を構える大輝の姿が。 「……あー、クソ!」 画面には『continue?』の文字と、カウントダウンを始める二桁の数字。 「大輝、お待たせ」 「お、双葉」 「……」 「渡瀬なら、書類仕事が残ってるから、後から来るってさ」 キョロキョロと辺りを見回す僕に、察した大輝が直ぐに答える。 「んじゃ、行こっか」 そう言って、大輝がガンコントローラーを定位置に置く。 「……え、もう行くの?」 「うん。もうコイツには、散々貢がされたからね」 残りの秒数が0になると『game over』の文字が、真っ黒の画面に表示された。 大輝と二人で、ネオン街を歩く。 悠に捨てられて、憔悴しきっていた僕を外に連れ出してくれた時の事を、ふと思い出す。 あの時とは状況が違うけど……こうして大輝と出掛けるのは久しぶりで。何だか新鮮な感じがする…… 駅裏にある、少し落ち着いた雰囲気のある通り。 そこを入れば、丸い提灯がぼんやりと浮かぶ、和風の店構えをした居酒屋が目に付く。入り口に設置されたお品書きを覗けば、海老やホタテ、蟹等の文字が毛筆体で書かれていた。 「ここにしようか」 「うん」 入り口の引き戸をガラガラと開ければ、直ぐに活気のある声が飛んでくる。そして男性店員が駆け付け、人数を確認した所で僕の顔をじっと見つめ…… 「……あの、失礼ですが。未成年の方ですよね」 「えっ、違います!」 「申し訳ありませんが……当店はこの時間帯、未成年の入店をお断りしておりますので……」 「だから、未成年じゃないって!」 そんな店員とのやりとりを隣で見ていた大輝は、助け船を出す所か腹を抱えてケラケラと笑い出した。 「はー、もう頭きた!」 頬を膨らませ、口を尖らせる。 店を出ても尚不機嫌な僕に、大輝が揶揄う。 「確かに、20には見えないね」 「じゃあ、何歳(いくつ)に見えるの?」 「……16」 「こ、高校生!?」 「うん。中学生でもイケる」 そう言いながら、大輝が気持ち悪い程の満面な笑みを浮かべ、グッと親指を立てて見せる。

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