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池 観覧車 見えない
メイン通りに戻り、居酒屋チェーン店へと入る。
週末の夜のせいか。店内は活気に溢れ、賑やかな笑い声が響く。
慣れない空間に戸惑いながら、壁際のテーブル席へと通される。
真四角のテーブルにイスが四脚。僕の斜向かいに大輝が座り、メニュー表を広げながら他愛のない会話を交わす。
「もうすぐ着くってさ」
いつの間に連絡したんだろう。カクテルグラスをテーブルに置き、携帯を取り出して確認した大輝が、僕にそう教えてくれた。
「……で、」
その携帯を仕舞いながら、見透かす様な流し目を僕に送る。
「双葉は渡瀬と、どうなりたい訳?」
「……え」
「もし渡瀬がノンケだったら、どうする? それでも渡瀬と、関係繋げてたい?」
「……」
大輝の言いたい事は、解る。
もしこのまま仲良くなれたとして、その先に未来がなかったとしたら。もし誠さんに彼女が出来て、その彼女と将来を誓い合ったとしたら……
僕はその現実を受け止めて、笑顔で祝福できるんだろうか。
大輝の言葉が深く突き刺さって……痛い……
「まぁ、そうだな。
初デートするなら、池のボートと遊園地の観覧車は止めときなさい」
「……え」
気落ちした僕に気付いたのか。それとも酔いが回ったせいか。へらっと笑った大輝がテーブルに片肘をつき、意図の見えない台詞を吐く。
「……何の話ですか?」
突然声がして見れば、大輝の背後にスーツ姿の誠が。
瞬間、心臓が早鐘を打つ。
「……んー、初デートの話」
飄々と答える大輝の台詞に、誠の瞳が大きく揺れる。
瞬間──一緒に映画を観た事を思い出し、僕も目を伏せた。
「まぁ、座りなよ」と大輝に促され、誠が僕の相向かいの席につく。
「……そういえば渡瀬」
ニマッと笑った大輝が、誠に怪しげな視線を送る。
「さっき、こことは違う居酒屋に行ったんだけどさ……」
……え、まさか……
「双葉、そこの店員に──」
「……ち、ちょっと、大輝!」
慌てて大輝の方へと身を乗り出し、両手でその口を塞ぐ。
「その話は、止めて」
「……ははっ。双葉。そのエピソード、最高だから!」
僕の手首を掴んで軽々と外し、大輝が構わず誠に話そうとした──時だった。
「……二人は、本当に仲がいいんだね……」
僅かに下がる眉尻。
静かに呟いた誠の口端が、少しだけ持ち上がった。
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