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赤 記憶 一人

あれだけ僕を揶揄って遊んでいた大輝の目付きが、一瞬で変わる。 ピンと張った空気。大輝の手に力が籠められ、掴んだ僕の手首を離さない。 「うん、高校時代の友人だしね。……ところで、渡瀬」 「……なに?」 「こいつ、何歳(いくつ)に見える?」 口の片端を持ち上げ、揶揄するような口調で質問を投げかける。性懲りもなく年齢の話を続ける大輝に、頬を膨らませて睨む。 「………20歳、かな」 「あー、酒飲んでるからとか、そういう推測は無しで」 「そうだね。……初めて成宮さんをお見かけした時は、正直……16、7かと……」 「ははっ、だよねぇ!」 へらっと笑った大輝に手を引っ張られ……顔をぐっと寄せられ…… 間近に迫った真剣な瞳が、僕を捕らえた──時だった。 ピルルルル…… テーブルに置かれた大輝の携帯が、けたたましい音を上げる。何事も無かったかのようにそれを拾うと、大輝がスッと席を立つ。 「……」 突然訪れた、二人だけの空間。 一変する空気。 ドクン、ドクン…… 何をどう話したら良いか、解らなくて。 戸惑いと緊張に押し潰されながら、視線を落とした先にあるカクテルグラスを見つめる。 「……それで。成宮さんは結局、何歳(いくつ)なんですか?」 「……え」 心臓が、大きく鼓動を打つ。 視線を上げれば、誠の優しげな眼差しを向けられ……動揺を隠せない。 「あ……えっと、……20、です」 「………ああ、そうですよね。浜田くんと同級生って、言ってましたね」 視線を逸らした誠の頬が、少し赤くなったように見えた。 「……あの。渡瀬さんは……おいくつなんですか?」 「僕は、25ですよ」 25──大輝とは、一体どういう関係なんだろう…… 冗談でも『恋しい人』と言える程、親密な仲だったんだろうか。 「……僕が浜田くんと知り合ったのは、まだ大学生の頃です。当時、家庭教師のアルバイトをしていて、受け持った生徒の中に、彼が……」 誠は記憶を辿るかのように、微笑みながらグラスを傾ける。 ……家庭教師。 そっか。だから喫茶店で、あんなに話が弾んで…… 「──!」 ブブブ…… 突然、スマホが震える。 取り出して確認すれば、そこに表示されていたのは、大輝からのメール。 《見たいテレビがあったの思い出したから、先帰るわ》 ──え! もぅ、信じらんない…… 視線を上げ誠を見れば、同じように携帯を覗き込んでいる。 再び画面に戻し、閉じようとして……まだスクロールできる事に気付く。 《夜道は危険だから、一人で帰るなよ》 「……っ!」 大輝の計らいに、携帯を持つ指先が甘く痺れた。

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