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カレンダー 食事 お願い
「……それ、お揃いですね」
「え……」
驚いて顔を上げれば、誠の視線が僕の手元に注がれていた。
「……あ、」
ストラップチェーンにぶら下がる、イルカのシルバーチャーム。
それは、今し方彼が手にしている携帯に付いているものと同じで……
「……えっと、……はい」
俯きながら、答える。
密かにお揃いにしたのがバレてしまい、恥ずかしさで……目を合わせられない……
「渡瀬さんの携帯をお見かけした時、……その、可愛いなって思ってて。
同じものを見つけたので……買っちゃいました……」
「……うん。可愛い……ですよね」
「はい……」
『可愛い』──オルゴールの時といい、誠から発せられるその言葉に……ドキドキが止まらない。
急にアルコールが回ったのか。顔も身体も熱く火照り、目の前がクラクラする。
定まらずに彷徨った視線は、テーブル端に置かれた卓上カレンダーに落ち着く。
そこに何やらお店のイベント情報が書かれているものの、内容までは入ってこない。
「……あの、」
随分と掠れた声。
カクテルに手を伸ばし、一気に飲み干してから、意を決して口を開く。
「あのっ、また映画とかお食事とか、……連れてって下さい」
目をギュッと瞑り、一息で言い切る。
……熱い……
頭がぼーっとして、なんだか視界もぼやけて……もう、良く解んない。
壊れそうな程高鳴る心臓。テーブルの下に潜めた両手を、ギュッと握りしめる。
ドクドクと身体が熱いのに、何故か指先だけは冷たくて。
落ち着かないまま視線を上げれば、少し驚いた誠と視線がぶつかる。
「……」
「はい。また行きましょう」
誠が柔らかく微笑む。
その表情に絆され、ホッとしたのも束の間……僕の瞳から、大粒の涙がポロッと零れ落ちた。
……あ、あれ……
驚いて、濡れた頬に触れる。
と、立ち上がって身を乗り出した誠の手が伸び……後から後から溢れる涙を、長くて綺麗な指に掬い取られた。
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