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支え 男 擬人化

……え…… それは偶然じゃなく…… 避けようとして、きゅっと握られる。 「……」 重なった手のひら。熱いくらいのぬくもり。 長い誠の指が、僕の指を交差し……恋人繋ぎの形に変わる。 ……誠、さん…… 間近で聞こえる、熱い吐息。 繋がれた手とは反対の指先が、僕の額にそっと触れ……睫毛に掛かる前髪を優しく退かす。 ……ん…… 合わせた手のひらに帯びる、熱くじんわりとした湿り気。高鳴る心臓。 いつ気付かれてしまうか解らないこの状況の中で……誠の肩にもたれ掛かったまま、身を預けていた。 「……あんな顔されて言われたら……自惚れてしまうじゃないか……」 「……」 微かに聞こえた声。 その言葉の真意は解らないけど。……少しは期待、していいのかな…… ぼんやりとそんな事を考えていると、僕の横髪に、誠の指が絡む。 僅かに震える指先。そっと髪を梳かれ、耳裏に掛けられた……時だった。 「……、」 指の動きが、止まる。 そして離れた指先が次に触れたのは……首筋にある、絆創膏。 「──!」 『重要なのは、その痕があるかないか、だからね』──その瞬間、大輝の台詞が思い出された。 タクシーが止まり、点滅するハザードランプ。 誠の手は、もう僕から離れていた。 運転手の男に「着きましたよ」と告げられ、それを合図にゆっくりと瞼を上げる。 「……すみません……」 「いえ、気にしないで下さい」 一寸も変わらない、誠の優しい笑顔。 だけど…… 「……」 ……きっと誤解、された。 そう感じているのに、何の弁解もできなくて。後ろ髪を引かれる思いでタクシーを降りる。 「それでは、また」 「……はい。ありがとうございました」 ペコリと頭を下げれば、柔らかく微笑んだ誠が手を振る。 僕も片手を上げて、振り返す。 外気に曝される手のひら。誠の温もりが、冷たい空気に拐われていく…… 誠を乗せたタクシーが、赤いテールランプを輝かせながら暗闇へと消えていった。 * ……う、頭痛い…… ベッドから降り、冷蔵庫にあるミネラルウォーターを取り出して半分程飲み干す。 リモコンを拾ってテレビを付ければ、映し出されたのは機関車トーマスと仲間たち。 そこから漏れる明かりのせいで、室内が仄暗いのに初めて気が付く。こめかみを押さえながら時計を見れば、時刻はもう18時を回っていた。 貴重な休みを一日潰してしまった事に落胆しながら、テーブルの前にストンと座る。 「……」 目の前に置かれたスマホ。ふと、ストラップチェーンに繋がれたイルカと目が合う。 向けられたその可愛らしい瞳に、何となく責められているようで…… 「……」 ……誠さん…… イルカに、そっと指で触れる。

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