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屋敷 虫網 暗黒

「和也さんに言われたんだよ。 『双葉が居なくなったのは、お前のせいだ!』『もうこれ以上、弟には関わるな』ってよ…… だったら尚更、双葉に会って本当の事話さなきゃなんねぇ、って。 ちゃんと誤解を解いて、不安で震えて泣いてるだろう双葉を、慰めてもやりたかった」 「……」 「俺は、全てを捨てる覚悟で、あそこを抜け出したんだ。今更諦められるか! ……そう思って、必死で探したよ。 双葉が行きそうな場所──思い付く限り片っ端から回って、捜しまくったんだよ……!」 「……お前……」 「でも、結局会えなくて。……捕まって、連れ戻されちまったけどな……」 ……悠…… もしかして、僕を捨ててなんか……なかったの……? なんで……何でこんな事になっちゃったの……? 上擦る呼吸を必死で抑える。零れ落ちる涙をそのままに。 もしあの時、会えてたら──今とは全然、違っていたのかな…… 『浮気したら、ぜってー許さねぇからな』 悠の中では、終わってなんかいなかった。 だから悠は、誠さんに手を引かれた僕を見て── ぎゅっと締め付けられる胸。 ……苦しい…… 「……悠、」 溜め息混じりの、穏やかな声。 肩を竦め、腕を組む。 「学校帰りに、蔦が蔓延った古い屋敷があったの……覚えてる? 開け放した二階の出窓に、小さな鳥籠が置いてあってさ。その籠の中に、可愛い小鳥がいたの」 「……? ああ……」 「餌をあげようとして逃げられちゃったからって、褒賞金を掛けた『捜し鳥』のポスターが街中に貼られて。 俺ら、その金目当てに虫網持って、走り回ったじゃん」 「……」 「でも、結局見つからなくてさ。 そしたら悠が、俺に言ったんだよ。──『鳥は自由になりたくて大空に飛んでいったんだから、捕まえてまたあの狭い籠に連れ戻すのは、可哀想だ!』ってね」 「……」 「本当の所は、その鳥にしか解らないよ。 けどさ。もし悠の中に、まだその考えが残っているなら、………もう双葉を、自由にしてやりなよ」 「──!」 大輝の台詞に、悠が勢い良く立ち上がる。 興奮したまま、その胸倉を掴んで乱暴に引っ張った。 「大輝、俺はまだ──!」 「……悠は知らなくて当然だけどさ。 双葉、今はあんなだけど……あの頃、酷く心が荒んでさ。大変だったんだよ。 ……もう、暗黒の女王様。毎晩違う男を連れ込んで、セッ……」 「──!!」 「……はぁ?!」 大輝の台詞に、僕も悠も同時に驚く。 悪質な冗談をいきなり混ぜ込まれ、真っ赤になる頬を膨らませた。 「ははは……!」 そんな悠の反応に、大輝があっけらかんと笑う。 「大輝、てめっ!」 「……あー、そろそろ双葉戻ってくるかもね。……愚痴なら後で、ゆっくり聞くからさ」 「……」 その言葉を合図に、涙を拭いて二人の元へと駆け戻る。 ……悠…… 僕は、自由な空なんていらない。 悠の籠に、戻るから…… 持てない程熱かったドリンクが、もう腕の中で冷めてしまっていた。

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