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瞬間 傘 シャンプー

長くて、綺麗な指。綺麗な瞳。 柔らかくて、優しい温もり…… 「──!」 ……誠さん…… 好きです、……好き…… 潤んだ瞳のまま、誠を見つめ返す。 瞬きも、忘れて…… 「……そんな顔をされたら、また勘違いしてしまいます……」 少し困ったように眉尻を下げ、寂しそうに微笑んだ後、視線を逸らされる。 「………ごめんなさい」 好き。……だけど…… 悠を捨てるなんて、できない…… 悠の中で、僕との関係がまだ続いてて。今も変わらず、僕を想ってくれていて。 小刻みに震える指先──あの手を離したら、悠が消えてしまいそうで…… 「ごめ、んなさ……」 胸が、苦し…… ……ハッ、ハッ、ハッ── 肺が握り潰されるように息苦しくなり、胸を押さえて背中を丸める。 ………何で、……何で今、発作が…… 「大丈夫ですかっ!?」 慌てた誠の声が、次第に遠退いていく。 雨だ…… 雨が、容赦なく僕の上に降り注ぐ。 頬を伝う雫。 それが雨なのか、涙なのか……解らない。 ……でも、ちょうどいいや。 雨の中なら、泣いても……いいよね。 澱んだ空に向かい、目を閉じたまま顔を上げる。 ……静かだな…… 何にも音がしない。 このまま雨に溶けて、消えてしまえればいいのに…… 不意に、雨が止む。 瞼を薄く持ち上げれば、視界に映ったのは……赤色の傘。 灰色の世界に浮かぶ、唯一の差し色。 ……誰? 傍らに、傘を持つ人がいる。 そう感じた瞬間、シャンプーのような爽やかな匂いが、僕の鼻孔を微かに擽った。 僕の前に、手のひらが差し伸べられ、それに答えてくれるのを待っている。 ──大きな、手…… 「………」 眩しい── ゆっくりと目を開ければ、視界いっぱいに広がる、誠の顔。 僕の手を優しく包み込む、大きな手。 「……、誠さ……」 「良かった……です」 え…… ……ここは…… 辺りを見回す僕に、誠が優しく答える。 「ここは、お店のバックヤードです。……倒れた時の事、覚えてますか?」 「………はい」 「もう少し、横になっていて下さい」 答えながら起き上がろうとして、止められる。 それでも僕は、頭を横に振って上体を起こした。 「……ごめんなさい……」 「……」 「嬉しかったんです。 まさか、誠さんに、可愛いなんて……言われるとは思ってなくて……」 まだぼんやりとする頭。 ゆっくりと深呼吸をした後、再び口を開く。 「……僕も、ずっと誠さんの事を……」 そこまで言って、ハッと我に返る。 一瞬で、クリアになる視界。 冴えていく頭。 この先を言って……どうするの? 悠の事は? 首筋を、手のひらで覆い隠す。 「……」 目を伏せ、きゅっと唇を引き結ぶ。 鼻の奥がツンとし、次第に熱くなっていく目頭。 「………もう、涙は充分です」 誠の指が頬に触れ、優しく包む。 驚いて視線を向ければ、誠の熱い視線とぶつかって……

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