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もどかしい 指先 弄ぶ 1

** 何度足が竦んだだろう。 スマホに登録した住所をアプリの地図で調べ、ようやく悠の実家に辿り着いたものの…… 「……」 ここまで来て、僕が首を突っ込んでいいものかと弱気になっていた。 時代を感じる造り──当時の流行りであったのだろう、西洋の造形を取り入れた二階建ての家。 それを少し離れた所から眺めていると、不意に玄関のドアが開いた。 出てきたのは、二十代半ばの綺麗な女性。 セカンドオピニオンで訪れたメンタルクリニックで、悠に兄弟はいないと言っていた…… ──という事は。 あれが悠の、奥さん…… そう思った途端、身体に緊張が走る。 ゆっくりと大きく深呼吸をし、意を決して足を一歩前に踏み出す。 「……あの、すみません」 カチャン、と門の鍵を掛けるその女性を呼び止める。 大通りに面した場所にある、大手のファミリーレストラン。平日のせいか、そこまで混み合ってはいない。 相向かいに座る彼女が、テーブルに片肘をついて僕に微笑む。 「……成宮双葉くん、よね。 悠から良く話を聞かせて貰ったり、写真も見た事があるから、直ぐに解ったわ」 そう言いながら、グラスに刺さったストローを指先で弄ぶ。 カラン……と、氷とグラスのぶつかり合う爽やかな音が、辺りに響く。 「私ね。これでも二人の事、密かに応援してたのよ」 ……え…… 「……あ。私の事、もしかして悠の嫁とか思った? ふふ、ごめんね。挨拶が遅れました。私、悠の姉の響子です」 「──え、」 驚く僕に、響子が豪快に笑う。 一見お淑やかなせいもあって、そのギャップにも驚く。 そんな僕から視線を外し頬杖をつくと、ストローでグラスの中を掻き混ぜる。 「私ね、母の連れ子なの。 ……悠とは半分血が繋がった、姉弟。 父方に親権が移るまで、悠と大輝と私の三人で、よく遊んだものよ」 「……」 何となく、想像してしまう。 幼い悠と大輝と響子の三人が、燥ぎながら野原を駆け回り、ダイヤモンドのようにキラキラと輝く毎日を過ごしながら、笑い合ってる姿を。 「……ああ、そうそう! 大輝もね、悠とは腹違いの兄弟なのよ」 屈託のない笑顔を見せ、響子がさらりと暴露する。 「──、」

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