2 / 5
中華料理1
───ある夜。
中華料理の円卓で奇妙な初顔合わせが行われていた。
「はじめまして。玉山鉄平です」
鉄平はちょっと緊張していたが、にっこり笑って自己紹介をした。
「……」
だが、相手は無表情で鉄平を見ている。
(お、怒ってる?)
鉄平は何か失礼な事をしてしまったのかも……と、ドギマギして固まってしまう。
「ああ、タマちゃんに怒ってるんじゃないよ。ちょっと機嫌が悪いんだよ。俺が無理矢理連れてきたからね」
竜蛇が微笑みながら優しく言ってくれたので、鉄平は肩の力を抜いた。
この場所は以前、志狼や佐和達と食事をした高級中華料理店の個室だ。
竜蛇から「会わせたい人がいる」と食事に誘われたのだ。
例のごとく、志狼は少し遅れてやってくる。
個室には竜蛇と鉄平、そして犬塚がいた。この部屋に入ったときから、犬塚はずっと不機嫌な顔をしている。
眠っていた犬塚は、竜蛇に「服を着ろ」と、叩き起こされた。
渡されたのは、首輪が隠れるゆったりしたチャコールのタートルネックのニットに黒のデニムだ。
服を着た露出の少ない犬塚を見て、ムラっときた竜蛇に「久しぶりに服を着た姿を見たら、脱がせたくなった」と、着たそばから脱がされた。
小一時間ほど、ガッツンガッツンにヤられたのだ。
しかも「遅刻する。急げ」と急かされ、慌ただしく身支度を整えて、この中華料理屋まで連れてこられた。
犬塚が不機嫌なのも仕方ない。
(……勝手だ。勝手すぎる)
腰は怠いわ、何も聞かされず急に引っ張り出されるわ、どこに行くのかと思ったら見知らぬ少年とご対面だ。
(まさか……こいつが竜蛇のセックスの相手か?)
監禁部屋にいた頃、竜蛇は一度だけ他の誰かとセックスをしてから、犬塚に会いに来た事があった。
その浮体(体だけなので浮気ではなく『浮体』by竜蛇)相手かと、犬塚は鉄平を疑っていた。
キツい眼差しで鉄平を睨む犬塚を見て、竜蛇は嬉しげに聞いた。
「妬いているのか?」
犬塚はそのニヤけ顏にもイラついた。
「うるさい」
竜蛇をひと睨みして、再び視線を鉄平に戻した。
「犬塚だ」
「あ、犬塚さん。よ、よろしくお願いします」
やっと犬塚が鉄平に口をきいてくれたので、鉄平はホッとして笑った。
「……」
その下心の無い無邪気な笑顔に、犬塚は戸惑った。この個室に入ってからの犬塚の態度は褒められたものじゃない。
なのに、鉄平は犬塚が名乗っただけでニコニコと笑っている。
(調子が狂うな……)
とても竜蛇のセックス相手には思えない。それどころか、ヤクザと接点があるようにも見えなかった。
「タマちゃんって呼んであげてね」
馴れ馴れしく愛称で呼ぶ竜蛇に、犬塚はまたイラつく。
この少年は一体何なのだ。何の為に三人で食事など……
犬塚が思案していると、扉が開き、大柄な男が個室に入ってきた。
ともだちにシェアしよう!