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中華料理1

───ある夜。 中華料理の円卓で奇妙な初顔合わせが行われていた。 「はじめまして。玉山鉄平です」 鉄平はちょっと緊張していたが、にっこり笑って自己紹介をした。 「……」 だが、相手は無表情で鉄平を見ている。 (お、怒ってる?) 鉄平は何か失礼な事をしてしまったのかも……と、ドギマギして固まってしまう。 「ああ、タマちゃんに怒ってるんじゃないよ。ちょっと機嫌が悪いんだよ。俺が無理矢理連れてきたからね」 竜蛇が微笑みながら優しく言ってくれたので、鉄平は肩の力を抜いた。 この場所は以前、志狼や佐和達と食事をした高級中華料理店の個室だ。 竜蛇から「会わせたい人がいる」と食事に誘われたのだ。 例のごとく、志狼は少し遅れてやってくる。 個室には竜蛇と鉄平、そして犬塚がいた。この部屋に入ったときから、犬塚はずっと不機嫌な顔をしている。 眠っていた犬塚は、竜蛇に「服を着ろ」と、叩き起こされた。 渡されたのは、首輪が隠れるゆったりしたチャコールのタートルネックのニットに黒のデニムだ。 服を着た露出の少ない犬塚を見て、ムラっときた竜蛇に「久しぶりに服を着た姿を見たら、脱がせたくなった」と、着たそばから脱がされた。 小一時間ほど、ガッツンガッツンにヤられたのだ。 しかも「遅刻する。急げ」と急かされ、慌ただしく身支度を整えて、この中華料理屋まで連れてこられた。 犬塚が不機嫌なのも仕方ない。 (……勝手だ。勝手すぎる) 腰は怠いわ、何も聞かされず急に引っ張り出されるわ、どこに行くのかと思ったら見知らぬ少年とご対面だ。 (まさか……こいつが竜蛇のセックスの相手か?) 監禁部屋にいた頃、竜蛇は一度だけ他の誰かとセックスをしてから、犬塚に会いに来た事があった。 その浮体(体だけなので浮気ではなく『浮体』by竜蛇)相手かと、犬塚は鉄平を疑っていた。 キツい眼差しで鉄平を睨む犬塚を見て、竜蛇は嬉しげに聞いた。 「妬いているのか?」 犬塚はそのニヤけ顏にもイラついた。 「うるさい」 竜蛇をひと睨みして、再び視線を鉄平に戻した。 「犬塚だ」 「あ、犬塚さん。よ、よろしくお願いします」 やっと犬塚が鉄平に口をきいてくれたので、鉄平はホッとして笑った。 「……」 その下心の無い無邪気な笑顔に、犬塚は戸惑った。この個室に入ってからの犬塚の態度は褒められたものじゃない。 なのに、鉄平は犬塚が名乗っただけでニコニコと笑っている。 (調子が狂うな……) とても竜蛇のセックス相手には思えない。それどころか、ヤクザと接点があるようにも見えなかった。 「タマちゃんって呼んであげてね」 馴れ馴れしく愛称で呼ぶ竜蛇に、犬塚はまたイラつく。 この少年は一体何なのだ。何の為に三人で食事など…… 犬塚が思案していると、扉が開き、大柄な男が個室に入ってきた。

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