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中華料理2

「あっ。しろう。お疲れさま」 「タマ」 個室に入ってすぐ、志狼は鉄平の頭にキスをして、アッシュグレイの髪をくしゃりと撫でた。 志狼は2m近い長身でガタイが良く、こめかみに傷痕がある。部屋に入った瞬間、鋭い視線を流して部屋の中をチェックしていた。刑事としての癖だった。 犬塚はすぐに志狼が只者ではないと感じたが、鉄平に向けた蕩けるように甘い視線と優しい声音に少し驚いた。 きっと、この二人はパートナーなのだろう。 「やぁ。志狼」 「おお。竜蛇」 竜蛇が定期的に会っている腐れ縁の友人だ。 志狼と鉄平を見て、犬塚は浮体疑惑を解いた。 「志狼。これが俺の可愛い犬塚だ」 「……」 竜蛇の言い方にカチンときた犬塚は竜蛇を睨みつけた。 「ああ。そいつが例の……」 含みのある志狼の言葉に「この男は知っているのか」と、犬塚は眉を顰めた。 「志狼だ。竜蛇とは腐れ縁だ」 志狼がエキゾチックなトルコブルーの瞳で犬塚を見て言った。 「こんな変態男とよく付き合っていられるな。大変だろ。嫌気がさしたら俺に言えよ。夜逃げの手伝いくらいしてやる」 志狼の言葉に犬塚は驚いた。竜蛇は苦笑いだ。 「えっ!? 竜蛇さんと犬塚さん、恋人同士なの?」 鉄平が天然発言をした。鉄平の言葉にも犬塚は目を丸くした。 「そうだよ、タマちゃん。俺は犬塚にベタ惚れだ」 「わぁ! おめでとうございます!」 鉄平が無邪気に笑いかけてきた。犬塚はどう反応してよいか分からず、居心地悪さを感じていた。 「ああ、ちくしょう。可愛いなぁ。タマは」 「えっ? 何が?」 志狼は竜蛇が犬塚を拉致監禁SM調教の末に恋人にしたのを知っている。何も知らない鉄平がニコニコと竜蛇を祝福しているのを見て、可愛いくてたまらない気持ちになった。 「さぁ。食事にしようか」 「タマ。何が食いたい?」 志狼にメニューを渡された鉄平だが、 「えっと。ニラ玉とエビ玉と……あっ!」 そこまで言って、ハッとして鉄平は竜蛇の顔を見た。確か竜蛇は…… 「ああ。こいつ、ニラ嫌いなんだよ。気にすんな。好きなの注文しろ」 志狼がニヤッと笑って竜蛇を見て言った。 「でも……」 「いいよ。タマちゃん」 竜蛇の笑顔にほっとした鉄平は、今度は犬塚の方を見て聞いた。 「犬塚さんは?」 「?」 「犬塚さんはニラ大丈夫? 苦手なものとか、ないですか?」 鉄平の自然に気遣うような様子に、犬塚は少し戸惑う。 「俺はこいつみたいに好き嫌いは無い。ガキじゃないんだ」 「言うね。犬塚」 チロリと竜蛇を見て、皮肉を込めて言った犬塚を、竜蛇が蛇のように目を細めて見た。 ……たまらないな。と、竜蛇は心の中で独り言ちた。 犬塚は竜蛇に惹かれている事をようやく認めた。以前よりも砕けた様子で、軽く毒付いてみせる時の顔に、竜蛇はそそられるのだ。 帰ったら、また鳴かせてやろう……と、密かに思った。 結局、鉄平はニラ玉もエビ玉も注文した。 鉄平はウーロン茶、竜蛇達三人は紹興酒を頼んだ。未成年は鉄平一人だ。 竜蛇、犬塚、鉄平、志狼の順に座った円卓で食事を始めた。

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