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第3話
慌てて誠から手を引っ込める
と同時に、音のした方へ目線を向けた
そこには、背が低く童顔で可愛らしい、スーツ姿の男性が立っていた
笑顔を誠に向け、片手を胸の辺りに上げると軽く手を振る
誠を見ると、目を細めたまま片手を軽く上げ返した
「……九条……あ、彼は、新入社員なんです
…実は、今日から彼の教育係になってしまったのですが……まさかここに来るとは……」
誠は苦笑いをして見せる
「ここに居る事、知ってたんですか?」
「…いえ、誰にも知られてない筈です」
ドアのチャイムが鳴り、新人の九条が店に入る
僕がカウンターに戻ると、九条は主人を求めるワンコの様に、笑顔を振り撒いて誠の元へと駆け寄った
僕はお冷やとおしぼり、そしてアイスコーヒーを準備する
チラリと見ると、相向かいに座った九条は誠の方へと身を乗り出して会話を弾ませていた
誠も楽しそうに彼に笑顔を向けている
そして時折、誠の笑い声が店内に響く
仕事の話なのだろうか……
…けど…
何だかモヤモヤとしてしまう
……僕の時は、もっと物静かで
あんな風に、笑ったりしない…
会話だって、あんなに……
胸の奥が締め付けられる
女の子みたいに可愛らしく
活発で積極的な感じで……
「………」
…端から見たら
お似合いのカップルみたい……
「ありがとうございました」
誠と九条が顔を合わせ
触れ合う程身を寄せたまま店を出る
…その背中を、僕は見送った
テーブルの上に残った、二つのグラス
まるでカップルが去った後みたい……
それを片付けていると、心が段々重くなっていく
……何でこんなに気にしちゃうんだろう…
誠さんに限って、そんな事ある筈ないのに……
だけど
正式にお付き合いした後は
距離が縮まった気が全くしない……
それ所か
触れるだけのキスをした後
直ぐに避けられる……
「………」
……もしかして、僕の事
嫌いになった…のかな……
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