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第5話
「……、え…えと」
僕は視線を泳がせた
すると大輝の顔つきが少し変わり、こちらに身を乗り出す
「渡瀬と何かあった?」
「……え、な…何も」
そう答える僕の顔を、大輝は食い入るように見た
それが何だか見透かされている様で、居心地が悪い……
大輝はカルピスウォーターが注がれたグラスを口に付けた後、目を細めてじっと見つめる
「……んー、じゃあ……
もう少し頑張って、双葉からアプローチしてみようか」
「え!?」
驚いて目をぱちくりとさせる
僕、何も言ってないのに……
……大輝のカンの鋭さは、やっぱり才能だと思う
「ね?」
「……う、うん」
テーブルに片肘をついた大輝が口端を上げる
圧されて答えてしまってから、肯定してしている事に気付き、再び大輝から視線を逸らした
アプローチ……
って、どうすればいいんだろう
想像しただけで顔が熱くなる
大輝と会ってから数日後
誠から連絡が入り食事の誘いを受けた
バイトを終えた僕は、待ち合わせ場所である駅前のショッピングモール内へと入る
…ここで待ち合わせなんて
いつものコーヒーの人、から
渡瀬誠さん…に変わった日
ここで一緒に映画を見て、それから外でご飯を食べて……
涙を指で掬われたり
頭を撫でられたり
あの一日だけで
誠さんとの距離を沢山縮められたんだっけ……
懐かしさに胸がじんわりと温かくなっていくのを感じる
週末の夜だからか、モール内は人が多かった
学生集団が固まって騒ぎながら僕の横を通り過ぎて行く
カップルや友達同士が楽しそうに笑う
そんな人達の顔を見て、僕の心も解れていく
……まだかな
携帯を握りしめ、連絡が来るのを待った
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